2008年10月9日に,総務省の「電波政策懇談会」(座長:土井範久・中央大学理工学部教授)の初回会合が開催された。「2010年代の電波利用ビジョンの作成を目指す」(渡辺克也・総務省電波政策課長)という位置付けである。中長期における電波需要を展望して戦略的な電波行政を進めるために情報通信審議会が2003年にまとめた,「電波政策ビジョン」の第2弾ともいえるものである。

 懇談会のミッションは,大きく二つに分けられる。一つは,増え続ける移動通信システムなどのトラフィック需要への対応である。これまでも総務省は,2003年に作成した電波政策ビジョンに基づいて周波数再編アクションプランを作成し,新しい周波数ニーズへの対応を進めてきた。この結果,移動通信システムで利用できる周波数帯域は,2003年の約270MHz幅から2008年には約500MHz幅に,無線LANは2003年の約160MHz幅から2008年の約515MHz幅に増えた。さらに無線ICタグの利用周波数の選択肢の拡大,UWBの導入,ITS(衝突防止システム)用周波数の確保などの実績を上げた。ただし,当時想定した周波数再編の大部分は実施済み,あるいは実施中である。

 2010年代を見通すと,これだけでは周波数はとても足りそうにない。例えば,懇談会の初回会合で総務省が用意した資料によると移動通信システムでは2010年に,2007年の4倍にトラフィックが増加するとみられている。懇談会では,「年率1.6倍のペースで増えており,このままでは10年で100倍以上」といった議論もなされている。こうしたトラフィック需要に対応するためには,改めて大胆な周波数再編策を提示ことが重要になる。

 もう一つは,新たな無線通信需要の掘り起こしである。無線通信とデジタル家電・ホームネットワークの融合,医療やロボット,センサーと無線通信の連携,物流管理の高度化など,様々な形態が考えられる。現在約1億の移動局があるが,これがさらに一桁増える可能性があるような新たな用途を探り,実用化に向けた環境整備のあり方を整理することである。

 懇談会の検討項目は多様なものになりそうだ。例えば衛星通信についても例外ではなく,軌道位置の逼迫(ひっぱく)が課題として示された。さらに,新たな無線通信関連技術の開発促進である。

 周波数の共用に向けた技術としては,コグニティブ無線(無線端末が周囲の電波利用環境を把握して未使用の周波数を探して,最適な変調方式など最適な通信方式を選択して通信する技術,いわゆるホワイトスペースをブロードバンド通信で利用するために不可欠の技術でもある),ソフトウエア無線(ハードウエアを変更せず,ソフトウエアの切り替えで複数の無線通信方式に対応する技術)を例に挙げる。周波数利用の効率化に向けては,使用帯域の圧縮を図る。また,ミリ波帯通信の技術開発を進め,6GHz以下という逼迫帯域の利用システムからの移行を図ることも課題に挙げる。