ネットワーク上でコンピュータ同士が通信するのは“常識中の常識”だが,「なぜ通信できるのか?」という問いに答えるのは案外難しいものだ。Windowsサーバーの管理者には,特にネットワークに弱い人が多いといわれる。例えばTCP/IPのプロパティ画面にある「サブネット・マスク」や「デフォルト・ゲートウエイ」といった設定項目を正しく説明できるだろうか。いずれも,重要な役割を果たす設定項目である。

 前回は「ブラウジング」という仕組みによって,ネットワーク上のコンピュータを一覧表示するまでのプロセスを説明した。今回はそこから1歩進み,ブラウジングで見つけたネットワーク上のコンピュータになぜアクセスできるのか,その仕組みを2回に分けて解説していく。

 Windowsネットワークの根幹となるテーマなので,かなり基礎的な部分から説明を始める。注意してもらいたいのは,「知っている」と思って読み飛ばした部分に,実は「知らなかったこと」が含まれているかもしれないことだ。Windowsネットワークのトラブルシューティングをする場合には基礎的な理解が不可欠なので,見落とすことがないよう読み進めていただきたい。

あなたはTCP/IPを正しく設定できるか?

 ネットワーク上でWindows OSのコンピュータ同士が通信する場合,その根幹にあるのはインターネット標準プロトコルの「TCP/IP」である。「ネットワーク上のマシンとなぜ通信できるのか?」という問いの答えは,まさにTCP/IPやその関連技術の仕組みを知ることに他ならない。

 しかし,TCP/IPが非常に重要な技術である半面,管理者でもこの通信プロトコルのことは理解不足だといわれる。TCP/IPの応用技術であるDNS(ドメイン・ネーム・システム)に至っては,「もう全く分からない」と白旗を揚げる管理者も少なくない。

 試しに図1を見てもらいたい。ここに示したダイアログ・ボックスは,TCP/IPのプロパティ画面である。あなたが管理者なら,比較的頻繁にこれらの画面を見ていることだろう。

図1●通信のすべての“謎”にかかわるTCP/IPのプロパティ画面
図1●通信のすべての“謎”にかかわるTCP/IPのプロパティ画面
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 ただし,画面上の設定項目である「サブネット・マスク」や「デフォルト・ゲートウエイ」が何を意味しているのか,正しく理解しているだろうか。きっと,「とりあえず入力すべき値は知っているが,それ以上のことは分からない」という方が多いと思われる。

 名前解決の手段である「DNS」や「WINS」(Windowsインターネット・ネーム・サービス)についても同様である。例えば「DNSサフィックス」に関する設定項目がいくつかあるが,この内容を正しく説明できるだろうか。ネットワークが正常に動作しているときは気にしなくていいことでも,異常が起こったときには解決への重要な鍵になることが多いのだ。

ネットワーク通信に必要な4つの要素

 さて,本題に戻ろう。ネットワーク上のコンピュータ同士が通信する場合,主に4つの要素がかかわっていると考えてもらいたい。(1)通信したい相手の“名前”を探し出す技術,(2)ネットワーク上でお互いの“場所”を示す識別子,(3)相手の“名前”から“場所”を調べる仕組み,(4)自分のいる場所から相手のいる場所に至るまでの“道筋”を調べる仕組み――である。これらの要素をきちんとマスターすれば,TCP/IPのプロパティを自由自在に設定できるようになる。

 (1)は前回紹介したブラウジングを指している。Windows 2000/XPの「マイネットワーク」を開けば,ネットワーク上にあるコンピュータの“名前”(つまり「コンピュータ名」)が列挙される。この一覧から,通信したいコンピュータを選べばいい。

 これ以外の要素については,それぞれ(2)IPアドレス,(3)名前解決,(4)ルーティングのことを指している。今回の[前編]では,まずTCP/IPの基礎となるIPアドレスとルーティングについて解説しよう。DNSやWINSなどの名前解決の仕組みはTCP/IPの応用技術なので,[後編]でまとめて紹介する。