奥野 克仁
NTTデータ経営研究所
内部統制担当シニアコンサルタント
今回のシステム導入で大きな挑戦だったのは,病院ならではの利用形態に対応するため,「ユーザー・ローミング」と「プリンタ・ローミング」機能を実装した点である。
医師や看護師は診察のため常に病院内を移動する。このため,いろいろな場所に端末を設置する必要があるほか,ワゴンに載せた端末を移動できるようにもしたい(写真1)。そして,最寄りにある任意の端末で電子カルテを操作できるシン・クライアント・システムを実現したいと考えた。
具体的には,ユーザーの操作画面を常にシン・クライアント・サーバー側で保持し,どの端末にログインしても,その画面を瞬時に呼び出せる機能を持つシステムである。この機能をユーザー・ローミングと呼ぶ。
また,病院では印刷物が大量に発生する。多くの印刷物は患者の個人情報を含むので,管理や扱いについて慎重でなければならない。シン・クライアント・システムの印刷機能も,個人情報への十分な配慮が求められる。医師が操作する端末が属する部署か,医師が事前に指定した場所のプリンタ以外では印刷できない機能が必要だった。これがプリンタ・ローミングである。
ログインに非接触ICカードを利用
これらの機能の実現に当たってカギを握るのが,端末へのログイン処理である。正確かつ簡単なログイン方法が求められた。
そこで利用したのが,病院の職員証として使われていたFeliCaベースの非接触ICカードだ。非接触ICカードであれば,リーダーに軽くかざすだけで確実で簡単に認証できる。鳥取大学のシン・クライアント・システムでは,非接触ICカードと連動するユーザー管理システムを開発し,端末にはICカード・リーダーを備え付けた。
非接触ICカードを使うユーザー・ローミングによって,医師や看護師は,職員証をICカード・リーダーの上に載せるだけで,すぐに自分の利用環境を表示できるようになった。職員証を外して他の端末のICカード・リーダーに載せれば,直前に操作していた画面が瞬時に復元される。ユーザーはログインやログオフをほとんど意識することなくシステムを使えるのである。
また,プリンタ・ローミングによって,いちいちプリンタを指定する手間が省けた。同時に,誤って別の場所にあるプリンタから印刷され,情報漏えいを起こす懸念もなくなった(図1)。
従来の電子カルテシステムはクライアント/サーバー型だったので,操作する端末を変える度にログインとログオフの操作が発生し,その度に業務が中断していた。これは医師や看護師にとって大きなストレスだった。一方,ユーザー・ローミングとプリンタ・ローミング対応のシン・クライアント・システムでは,これらの操作の手間が激減。業務効率を大きく向上させられた。