昨今話題になっている「学校裏サイト」やネットいじめについてその実態に迫り,有効な対策を論じた本。未成年者の携帯電話利用に関して,行政主導で様々な方策が具現化する中,まさにタイムリーな一冊だ。

 まず著者は,過剰に不安をあおるような学校裏サイトに関する報道体制を問題視する。実際にサイトを利用する子供たちへのインタビューを通して,大半のサイトが他愛の無い「学校勝手サイト」とでも言うべき存在であることを明らかにする。

 そこから「いかにサイトの“裏化”を回避するか」という視点で,問題の本質に迫る。著者はサイトのムードが参加者の性格に大きく左右されるといった例を出しながら,「サイトの裏化は,学校という現実のコミュニティの問題と密接に関係しており,技術によって引き起こされるのではない」と結論づける。かつては表面化しなかった学校内のいじめが,ネットの存在によって可視化されたにすぎない,というわけだ。

 著者の分析は,学校内のコミュニティにおいて「キャラ」を演じ分ける,子供たちの関係まで及ぶ。そこまで問題を分析した上で,先行する世代として,いじめを回避できる人間関係を築くにはどうすべきかといった助言をする。

 著者の分析は多くの示唆に富み,ネットに限らず学校という空間におけるコミュニティの形成について,新たな視点をもたらしてくれる。もっとも,幅広い分野に言及したことによって,短いページ数では語りきれていない部分も多い。さらに掘り下げた分析を読みたいところだ。

 携帯利用の健全化に向けては,未成年者への携帯フィルタリングの原則義務化が決まるなど,行政が主導するかたちで既に動き始めている。しかし,あまりに性急な動きであるため,運用する中で必ずや方向修正が必要になってくるだろう。だからこそ著者の冷静な分析は,今この時に読む価値がある。

ネットいじめ

ネットいじめ
荻上 チキ著
PHP研究所発行
777円(税込)