再び不況だ。地方はますます疲弊する。心配しつつ最近こう思う――地方の窮乏は独裁国家の飢餓発生と同じメカニズムで起きているのではないか。飢餓は貧困だけでは起こらない。全体主義国家でのみ発生するといわれる。例えば江戸時代の東北。気候に合わない米作を強いられ飢餓に苦しんだ。今の日本には飢餓はない。そもそも民主主義国家だ。しかしこと中央省庁と自治体、国と地方の関係についていえば全体主義に近い。全国一律のルールが各地の創意工夫を阻み、地域と自治体を疲弊させる。全体主義の政府は創意工夫を許さない。それでいて政府は窮乏の事実を認めない。結局、弱い地域が見捨てられる。

 全体主義からの転換は容易でない。勇気を奮い、ルールに風穴を開ける事例が出てやっと変わり出す。ところが中央権力は狡猾である。「抜本改革」、例えば「地方分権」「道州制」などがもうすぐ実現するかのような演出をする。だがともに戦前から議論されてきたテーマで地方が窮乏するたびに"ガス抜き"に利用されてきた。

行き詰まる国の自治体再建策

 バブル崩壊後の過去17年間、自治体は減量経営を続けた。公共事業は半減し、地方公務員の数もこの10年で1割減った。だが積みあがった債務を返す原資はない。通常のやりくりでは財政再建は不可能だ。多くの自治体は事務・事業の見直しと借金の先送り、会計間の資金融通で毎年の予算を捻出する。すでに事実上、破綻(債務超過)している自治体は多いが国はその事実を認めない。財政健全化法をよりどころに破綻を先延ばしにする。その上でますますの窮乏生活を強いる。国家財政は自治体財政以上に窮乏している。思い切った資金援助もできず、安上がりの応急手当として市町村合併が進められた。

 だが真の財政再建、本当の改革には個々の事業の改廃が必要だ。人口減少するなかでいったいどこまで下水道や道路を作り続けるのか。年金より有利な生活保護制度が果たして適切なのか。個々の自治体の現場は分かっている。ところが中央省庁は無関心だ。三位一体改革でもその無知と非情ぶりが露呈した。例えば公営住宅事業。全国に膨大な数がある。大阪市の場合、時価総額は1.7兆円にものぼる。都市部では民間賃貸住宅に大量の空き家がある。多くの自治体の本音は縮小や福祉施設等への転用だ。しかし公営住宅法は建替による戸数の現状維持を義務づける。現実には自治体に財源がなく建替や転用・廃止が進まない。このままでは建物が老朽化し、地域のスラム化を招きかねない。

 一時は第3セクター再生の切り札と喧伝された「地域力再生機構」も法案が成立せず立ち消えの気配だ。だが発足できても産業再生機構のような力が発揮できない可能性がある。産業再生機構は金融機関への公的資金の注入を背景に不良債権が安く買えた。今回は同時に公的資金を投入する仕組みがない。あまり機能しないのではないか。

 「道州制」の設計も進まない。道州の必要性やその内容は九州、関西など個々の地域での議論なしには明確にならない。中央で全国一律の制度を抽象的に論じていても仕方がない。要はわが国の中央政府には地域再生や自治体再建を仕切る能力がない。こうなったら地域内の自治体が力を合わせて運命を切り拓くしかない。

地域再生は自治体の生産性分析から

 地域再生の主体はあくまで企業や住民だ。だが初期段階では土地・施設など自治体が持つ資産を活用すべきだ。また自治体の壁を超えた事業の連携や統合も考える。そこから政策のイノベーションも見えてくる。

 例えば大阪。都市再生には工場跡地から交通インフラ、文化資源まで域内資産を総動員した産業構造の転換策が必須だ。そのためには将来性をアピールし、域外から投資資金と人材を誘引する必要がある。そのために橋下知事は大阪市と大阪府の事業連携から着手した。すでに水道事業の統合、大阪市が建てて経営破たんしたWTC(ワールド・トレード・センター)の府庁舎への転用の協議が進んでいる。さらに伊丹空港の廃止や関西新空港と神戸空港との一体運用も国や兵庫県、神戸市等に対して迫る。これら3件はいずれも経済原則を踏まえた地域再生への提案である。

 地域再生とは、各地域が国のくびきから自らを解放し、潜在能力をフルに開花させる独立運動、いわば革命である。つまり中央主導の地域再生、自治体再建はありえない。国の制度改革を待たずに自治体は自らの事業と資産の見直しを行うべきだ。その作業を通じて地域再生の手がかりを掴む。同時に地域の切実な実態を全国に訴え、連帯して国の制度を変えさせる。これが地域再生と自治体再建への正攻法である。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一 運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。8月に『行政の解体と再生』(東洋経済新報社)を発刊。その他『だから、改革は成功する』『行政経営の時代』『ミュージアムが都市を再生する』ほか編著書多数。