Gartner,Inc.
亦賀 忠明 VP兼最上級アナリスト
(Gartner Symposium/ITxpo 2008 チェア)

 「これからどうすればよいのか」―。ITベンダーやインテグレータの幹部から、こうした相談を受ける機会が増えている。日本のビジネス環境が厳しくなりつつあるからだけではなく、IT自体が変わりつつあるからだろう。最近はクラウドコンピューティングに代表される「必要なときに必要なサービスを巨大なデータセンターから提供する時代」がリアリティをもって語られるようになっている。

 こうした中、多くのインテグレータが「システムインテグレーション(SI)という事業自体が限界に来ている」と感じている。実際、あるSI企業の幹部は最近、「近い将来、SI企業は崩壊する」と発言している。

 テクノロジもユーザーのビジネス要件も多様化し、かつ高度なものになっている。多くのベンダーは赤字プロジェクトの撲滅を徹底することで何とか収益を確保しているが、こうしたやり方は対症療法的。ユーザーニーズやテクノロジ、そして社会の変化に有効な策とは言い難い。

 ユーザーもビジネス環境の変化を感じている。IT部門の意味や役割をこれまで以上に真剣に議論している。

 「これまで国内の大手インテグレータに丸投げしていたが、こうしたやり方はもう時代が許さない」。ある金融大手の最近の発言だ。「これから自らがIT戦略を推進していかなければならない」と続けた。

 「もはやこれまでのやり方では通用しない」。ベンダーもインテグレータも、そしてユーザーもそう思い始めている。今年2008年は、日本がこれまでのやり方や考え方の限界に気づき、その先の答えを探すべく模索し始めた年として歴史に記録されるだろう。

 新たな時代の到来をより認識するために、今起こっている「新たな出来事」をテクノロジの観点でにまとめた。SFのような話が急速に、しかも同時期に現実化しつつあることがわかる。

図●新たな時代を予感させる最近の事例
図●新たな時代を予感させる最近の事例
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 これらの出来事は単純にグローバル化の代表例として語れるようなものではない。グローバル化を超えた何かが起こっているととらえるのが適切だ。

 時代はグローバル化を前提とした新たなアイデンティティの時代に入りつつある。コモディティなモノやサービスは時間とともに価値が低下する。市場においては、企業は早晩コスト競争で疲弊する。

 だからこそ、これまでにない価値を創造し、それを地球レベルに訴求して自らの存在をアピールする動きが起こっている。企業競争の観点で言えば、競争の原理を自ら変えようとするゲームチェンジの発想や、新たな市場創造を目指そうとするブルーオーシャン的な発想をも含んでいる。

 一方、ガートナーとフォーブスが2007年に実施した調査では、企業がITを「ビジネス競争上の武器」ととらえる動きも明らかになっている。

 これからのグローバル競争は単なる追随型ではなくなる。世界の中で唯一的な価値を地球規模に訴求し、実際に提供するものが勝者となる時代が来ている。こうした認識を日本企業は持つべきだ。

新たなビジネス

 10年後のビジネスはどうなっているか。この問いに対する明確な答えはないが、グローバルが認める絶対的価値を追求する必要性を日本企業は真剣に考えるべきなのは確かだ。

 グローバル時代は地球レベルの巨大企業の出現を加速する。その一方で、ネットワークを前提にグローバルレベルで統合した企業や、1社ですべて完結するのではなく共に新たな価値を作り上げるエコシステムの出現を促す。企業はこうした観点から新たな企業の形を再考するのが望ましい。

 いずれにしてもグローバル競争は素手では戦えない。すべての企業はテクノロジを武器にグローバル競争を勝ち抜くという時代に入った。「ITを前提に企業の形やビジネスを設計する」発想も重要になる。

 この場合、IT部門やエンジニアの役割は戦略家であり、また武器を企画・設計もしくは開発する人々になる。こうした観点からも企業は自社のIT要員のあり方を検討すべきだろう。