米インテルが6年がかりで全社の基幹系システムの見直しを進めている。SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づき、変化に追従可能なシステムの実現を狙う。売上高4兆円、システム部員約5500人を抱える同社だが、実はデータやアプリケーションが各業務でバラバラという日本企業と同じ悩みを抱えていた。

 世界最大の半導体メーカー、米インテル。2007年12月期の売上高は383億米ドル(約4兆円)。売上高は前年比108%と微増だったが、営業利益は同145%の82億ドル(約8600億円)に上る。粗利益率55%強を保つIT業界屈指の高収益企業だ。

 社内システム向けの投資規模もケタ違いだ。世界117拠点にデータセンターを持ち、全世界で約5500人のシステム部員を抱える同社の年間IT予算は約 10億ドル(約1050億円)。日本企業の平均年間IT投資額(経済産業省調べで7億2500万円)のほぼ150倍の規模だ。

 インテルは今、09年の完了を目標に全世界の社内システムを見直している最中だ。SOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方を取り入れ、「業務の変化に追従できる柔軟なシステムに転換する」とインテルのシステム部門でチーフアーキテクトを務めるグレッグ・ワイアント氏は話す(図1)。

図1●米インテルが目指すSOA(サービス指向アーキテクチャ)の全体像
図1●米インテルが目指すSOA(サービス指向アーキテクチャ)の全体像
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 インテルがSOAへの取り組みを開始したのは03年。6年がかりの長期プロジェクトである。背景には、取引先の変更やリードタイムの短縮など「ビジネスは日々変化するのに、その変化にシステムが追いつけない」(同)という、多くの日本企業と共通する悩みがあった。

わずかな機能変更さえ不可能

 インテルの従来システムがビジネスの変化に追従できなかったのは、現状の個別業務を優先してシステムを導入した結果、「ちょっとした機能変更さえ難しい」(ワイアント氏)状態に陥っていたからだ。

 同社の基幹系システムの中核を成すのはERP(統合基幹業務システム)パッケージである。1996年から順次、独SAPのERPパッケージ「R/3」を導入した。ほかにSAP以外のパッケージや独自開発のシステムを利用している。

 ところが会計、SCM(サプライチェ ーン・マネジメント)など業務ごとに順次導入したため、複数のR/3のバージョンが混在していた。「顧客」や「取引先」といったマスターデータも個々のシステムで異なっていた。

 しかも業務に合わせることを優先させ、ERPパッケージに数多くの改変を施していた。アドオン(追加開発)は10万個所以上、好ましくないといわれる、ソースコードを変更するモディフィケ ーションも数千個所以上ある。これでは小さな機能変更さえ困難だ。

 半導体業界のトップ企業とはいえ、ビジネスの変化に追随するのは容易ではない。社内システムをこのまま放置できない。インテルは社内システムを全面的に見直す決定を下した。2003年のことだ。

 まず手がけたのは現状の“見える化”である。全世界の社内システムとその関係をすべて図式化した。次にあるべきシステム像を描き、図式化したシステムの現状と比べて差異を分析。3年間検討した結果、あるべきシステム像をSOAの考え方を取り入れて実現するのが有効と判断した。