これまで私は「Ruby」には縁がなかった。「話題になっているな,勢いがあるな,面白いんだろうな」と思いつつ,横目で眺めていた。でも最近,思いがけないことがあったので書きたい。

 恩人に,日本のコンピュータ産業の発展と共に生きてきたような人がいる。昭和一桁生まれで,先ごろ喜寿を迎えた。若い頃はアセンブリ言語をたしなみ,FORTRANが登場すればいち早く修得し,人に教えていた。メインフレーム全盛期には,そこそこ大きな電算室の運営にもかかわった。

 80年代になり国産PCが登場すると,早速自宅にNECのパソコンを導入し,N88-BASIC(NEC独自のBASIC言語)であれこれとプログラムを作り,仕事にも活用していた。メインフレーム相手の仕事が多かった彼にとって,いつでも勝手にいじれるコンピュータ,コンパイルの要らないプログラミング言語はさぞ魅惑的だったのだろう。この後もPCには投資を続け,自宅にはいつもそれなりのスペックのマシンを置いていたそうだ。

 それがである。最近の彼にとってPCは,「楽しい玩具」から「悩ましい道具」になってしまった。Windowsが登場したあたりからだろうか,ネットに接続してメールを読み書きする,文書を印刷する,という程度の使い方しかしなくなった。さらには,時折PCがうまく動かなくなると対処に困るようになった。

 素人の話ではない。ずっとPCを使い続けてきたからそれなりのリテラシもある。だが,Windows登場以降のPCが備える「何か」が,決定的に彼の急所にはまっているようなのだ(個人の話なので,Windowsが悪いとは思っていません,念のため)。そんなわけで,時には不肖私がお手伝いする場面も出てきた。

 ちなみにその私は,理系の大学は出たがプログラミングは大の苦手。3年生の必須科目だった「FORTRAN実習」に泣き,研究室では実験データの取り込み用プログラム(C言語でたった数十行)を改修するのに悪戦苦闘,画面に何度もまっ赤な雨を降らせた挙句,挫折して助っ人を召喚…という具合である。

 彼は確かに現役から遠ざかって久しいけれど,コンピュータの基本的な成り立ちや仕組みについてはハードのレベルから知り尽くしている人なのだ。それなのに,私が毎日気軽に使っているWindows PCが,彼の痛点になっているのだ。何だかなあ。

久々に彼のPCをのぞいてみた

 さて先日久々に彼のWindows PCをのぞいてみたら,何か見慣れないものがインストールされていた。「何ですかこれ…あれ,もしかして…Ruby?」。彼は静かに言う。「そうそう。なんか面白いらしいから入れてみた」。どこから情報を仕入れたのだろうか(ちなみに彼はITproの読者ではない)。久しぶりに食指が動いたらしい。照れているのか,ちょっと頬が紅潮していた。

 アセンブリ言語→OKで,Windows PC→NGで,Ruby→OK。コンピュータ言語の変遷に詳しくない私には,そうなる理由が分からない(詳しくても分からないかもしれない)。だが,久々に彼の遊び心を呼び覚ましたRubyには,理屈や背景はどうでも,とりあえず飛び込んでみたくなる魅力があるようだ。

 お陰で私も,ちょっとRubyをいじってみようかという気になっている(無謀と言われるだろうが,自分のスキルのなさはこの際脇に置いておく)。彼とメールでやりとりしながら,競争しながら,ゆっくり学んでいこうと思う。彼にはコンピュータ科学の素養という素晴らしい武器があるが,私の方にだって彼より40年近く若いという強力な武器がある。できるなら作ってみたいアプリケーションもある。2人でどこまで行けるか楽しみだ。

■変更履歴
「FORTLAN」という表記が2カ所にありましたが、正しくはFORTRANです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/10/21 09:47]