今回は,今後導入されるフェアユース規定としてどのようなものが考えられるのか,米国のフェアユース規定などを参考に,そのメリットとデメリットを見ていきたいと思います。

 フェアユース規定というと,米国の著作権法における規定が有名です。そこで,米国著作権法の規定がどのようなものであるかを理解してもらうことが,フェアユース規定を理解する早道かと思います。

 米国著作権法の107条は「批評,解説,ニュース報道,教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む),研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェアユースは,著作権の侵害とならない」と定め,一般的包括的な権利制限規定の形式をとっています。

 そして,フェアユースか否かを判断する場合には,次のようなファクターを考慮すると定めています。

  1. 利用の目的および性格(利用が商業的な性格を有するか,または非営利の教育目的であるのかということを含む)
  2. 著作物の性格
  3. 著作物全体との関連における利用された部分の量および本質性
  4. 著作物の潜在的な市場または価値に対して利用が与える効果

 以下,各ファクターがフェアユースに該当するか否かを判断する際,どのように利用されるかを説明します。

非営利目的の利用やノンフィクションでは認められやすい

 まず,第1のファクターである「利用の目的および性格」では,利用によりどれだけ変形させることができるものか,生産的な利用かが問題となります。変形や生産的な利用であれば,フェアユースが認められやすくなります。また,非商業目的(非営利目的)であればあるほどフェアユースが認められやすくなります。

 第2のファクター,「著作物の性格」は,利用される著作物の制作がノンフィクション(伝記,回顧録等)なのかフィクションなのかが問われます。ノンフィクションの利用であればフェアユースになりやすく(事実なので利用の必要性が高い),フィクションはその逆ということになります。

 第3のファクター,「著作物全体との関連における利用された部分の量および本質性」は,利用される著作物の分量や利用される部分が本質的かどうかです。当然ながら利用部分が少なければ,あるいは非本質的であればフェアユースが認められやすくなります。

 第4のファクター,「著作物の潜在的な市場または価値に対して利用が与える効果」は,「潜在的」な市場または価値に対する効果がどれだけになるかです。著作物の市場または価値に対して現実に損害が与えられている必要はありませんが,潜在的な市場に実質的な不利益が働く場合にはフェアユースが認められないことになります。

 なお,米国著作権法にも個別の権利制限規定の定めはあり(108条~122条),フェアユース規定だけで権利制限に関する処理が行われているわけではありません。フェアユース規定は,個別規定で調整できない問題を処理する役割を果たしている,と言われています。

検索サイトにもフェアユースの成立を認める

 米国著作権法のフェアユース規定は,この規定があって初めてフェアユースが認められるというものではありません。もともと判例法上認められていたものを確認的に規定したものである,と言われています(注1)。したがって,フェアユースが認められる二次利用は,上記ファクターを満たす場合に限定されません。

 また実際のところ,上記のファクターに関しても,判例によりその範囲が拡大されています。例えば,米国著作権法107条には「批評,解説,ニュース報道,教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む),研究または調査等を目的とする」とあります。これだけ読むと,利用目的が限定されているように読めますが,実際にはこの目的よりも広い範囲でフェアユースが認められています。

 フェアユース規定の効用としては,ソニーのベータマックス事件(注2)がよく引用されます。これは家庭内でのビデオデッキによる複製行為が問題となった事案で,テレビ番組等をそのままテープにコピーしている(著作物をそのまま消費するという意味で消費的利用と呼ばれます)ので生産的な利用ではありません。また,ソニーが販売している複製可能な装置によって複製行為が行われているという点で,商業的な要素が全くない事案でもありません(いずれも第1ファクター)。

 しかし,ベータマックス事件の最高裁判決では,第1ファクターに関して,家庭での私的使用のためのタイムシフト(time-shifting)は非商業的・非営利的な利用である,第2ファクターに関しては無料放送の録画であること,第3ファクターについては全部録画なのはタイムシフトのためなのでフェアユースを判断するうえでソニーの不利益とは考慮されない。第4ファクターについても著作物の市場価値に損害を与えたことを立証できていないということで,フェアユースが認められました。

 このように一見,米国著作権法上の考慮要素に該当しない場合でも,実質的に裁判所が解釈を通じて適用範囲を拡張し,著作物の保護と利用のバランスを図っているわけです。

 検索サイトについても,単なる元の著作物の利用ではなく,変形的な利用であるということでフェアユースの成立が認められた例があります。グーグルのキャッシュリンク機能が問題になった事案(注3)では,キャッシュ自体はソニーの例と同じく著作物をそのままコピーしています。さらに,グーグルは検索連動広告により収益を上げており,商業的な要素もありますので,フェアユース成立に障害がありそうな事案です。しかし,裁判所はフェアユースの成立を認めました。キャッシュリンク機能は,元来の著作物とは異なる社会的に重要な目的・役割を提供しているので変形的な利用にあたる,変形的な利用の場合に商業的な性質を持つことはそれほど重要ではない,などの認定によるものです。

 このように,裁判所の判断により柔軟な解決を行うところが,アメリカ著作権法上のフェアユース規定ということになります。もちろん,柔軟に判断されるが故に裁判結果が予測しづらいというデメリットも発生してきます。しかし,変形あるいは生産的な利用か否かという解釈を通じて,新しい利用方法が創造的なものかどうかという事情を,合法的な著作物利用か否かの判断に組み入れられるというのは,イノベーションを著作権法が阻害しないという観点からは魅力的な判断方法ではないかと思います。仮に,日本においてアメリカ型のフェアユース規定を参考に立法するのであれば,米国の判例の流れを踏まえていただきたいものです。

 次回は,日本の著作権法に小さな一般条項(米国型のフェアユース規定と日本型の権利制限規定の中間的な規定)を設けた場合の問題について検討を加えていきます。

(注1)白鳥綱重「アメリカ著作権法入門」210ページ
(注2)ソニーが他者による著作物の侵害行為をコントロールし得る地位にあることにより寄与侵害である,として責任を問われた事案です
(注3)判決内容の詳細については,作花文雄「googleの検索システムをめぐる法的紛争と制度上の課題 前編」コピライト2007年7月号 27ページ以下参照

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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。