マネジメント

記者のつぶやき

TechOn!

インチキ枕と横長画面

そして「ヤバい」領域へ

 願わくは今後もそうあり続けて欲しい。それが私の勝手な願いである。一方で、ちょい悪商法が跋扈しがちな「消費者にはまったく評価できない」「ただ信じて買うしかない」商品群の作り手として、真っ白な看板を背負った大手メーカーが次々に名乗りを上げている。サプリメントなど健康食品の分野へは、すでに国内の大手飲料、薬品メーカーなどが多く参入している。その動きは、エレクトロニクス・メーカーをも巻き込みつつあるようだ。

 先日も、「2012年度には,健康・環境事業の売上高を1兆円に乗せる」というニュースが配信されていた。 シャープの片山幹雄社長が、新製品発表会の壇上でこう高らかに宣言したのだという。健康・環境事業とは,空気清浄機,冷蔵庫,洗濯乾燥機,オーブン・レンジといった白物家電やLEDの事業などを指し、その基幹技術として有名なのは,テレビCMなどでも紹介されている白物家電向けの「プラズマクラスター技術」である。

同社のホームページをのぞいてみると、「快適イオン家電」なるページが用意されており、プラズマクラスター技術を使った「除菌イオン」のほか、銀イオンの除臭効果を使った「イオンコート」、「塩が作り出すイオンのチカラ」を利用するらしい「イオン洗浄」が具体例として紹介されている。洗濯機も冷蔵庫も10年選手というわが家ではこれまで無縁だった「何とかイオン」だけど、これを読むと相当にいいものらしい。これまで真面目さを貫いてきたエレクトロニクス・メーカーの説明だから、信頼できるものなのだろう。

 それでも、「ヤバい領域に踏み込んでるなぁ」との不安は消えない。「ヤバい」というのは、「容量は何L、消費電力は何W」という消費者にも分かりやすい領域から、「雑菌が死ぬから健康によい」といった、消費者の関心は極めて高いが実際の効果は検証しにくい領域へと競争軸が移っていることを指している。こういった領域では、先に挙げた多くの例が示すように「実際の効果はなくてもクレームは来ない」という現象が起こり得る。「違法でない範囲で高らかに効能をうたったもの勝ち」といった風潮が生まれかねないのである。

横長画面の「不実」

 いや、問題は健康家電に限ったことではない。そもそもエレクトロニクス・メーカーが扱う商品全般が、技術の進歩に伴って消費者が評価しにくい商品になっている。Tech-On!のコラム(これこれ)でも、そんなことをかつて神足裕司氏がやんわりと指摘されていた。

 そこで、何が起きたか。たとえば、神足氏も例に挙げたテレビである。これは私がかつてコラムで書いたことなので、簡単に引用してみたい。

 それが登場したのは、もう20年近く前だっただろうか。タテヨコ比4対3のテレビに代わり、16対9のテレビが大挙して店頭に並ぶようになった。テレビメーカーはこう言っていた。「これから横長画面の放送が主流になる。その予測に基づき、未来を先取りするかたちで私たちはこの最新テレビを投入する」と。けれど、消費者が身近に聞くのはメーカーのコメントではなく、テレビの横で笑顔をたたえる店員の話だ。いわく、「これから放送はすべて横長になって、現行の4対3の放送はそのうち、なくなる。だから、この横長画面テレビに買い換えないと・・・」。 それからかなりの時間が経ったが、消費者が良く見るバラエティー番組や報道番組は、依然として4対3のまま。店員の説明は、結果として嘘だったわけだ。

 一般の消費者は、よく知らない。「すべて横長に」と聞いてすぐに総務省のホームページにアクセスしてみるのは少数派で(当時はそんな手段もなかったけど)、多くの人たちは「そうかぁ、じゃあ買い換えなくては」と思ってしまうのかもしれない。けれど、それが虚偽だったことが露呈すれば、信頼は不信感へと転化していく。それを最小限に防ぐのが「事後対応」というものだが、メーカーは横長画面をやめるどころか、主力製品のほぼすべてを横長画面にして選択肢そのものを消してしまった。で、4対3の番組を無理やり横に引き伸ばして16対9の画面に映しているのである。

 だが、素人にはちょっと識別できないような画質の差を言い立てるメーカーが、丸い月や自動車の車輪が楕円にしか写らない画面をどうして許せるのだろうか。それに強烈な違和感を抱き、画面の左右が黒い帯となる「ノーマルモード」を使ってこの事態を避けている私などは少数派で、多くの人たちは慣れてしまって特に疑問も感じないのだろう。「だから問題ないでしょ」と言われればそうかもしれないけど、依然として私は不満なのである。

こんなご時勢だから

 そんなことがあるものだから、「サイエンスをバックボーンにもつ技術者が支えているメーカーなら大丈夫、信頼できる」と思いつつも、いくばくかの疑念が消えない。悪い誘惑にふらふらと、などということにならなければいいがと。

 目を転じれば、米国では金融界がえらいことになっている。景気後退への警戒感は世界を覆い、多くのメーカーが設備投資を凍結し、経費や人員の削減を検討し始めていると聞く。そんなご時勢だから、技術者にはこれまで以上に利益確保を求める叱咤の声が浴びせ掛けられることだろう。邪な道に走りたくなる要件は揃っているのである。

 こんな時代、状況だからこそ「誠意」や「自制心」というものが必要なのだと思う。いやいや、他人事ではない。改めて肝に銘じなければと自戒する今日このごろである。

この記事は「Tech-On!」で連載中の『思索の副作用』から転載したものです。バックナンバーはこちらからご覧いただけます。
(仲森 智博=電子・機械局編集委員)  [2008/10/10]

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