クラウド・コンピューティングは,長らく続いた「ハードウエア/ソフトウエア販売」「システム・インテグレーション」というIT業界の構造を変え始めている。これまで業界の盟主であった米IBMやMicrosoftも,クラウド・コンピューティングへの対応を急ぐ。

 売り上げに占めるオンライン・サービスの割合が,5%にしか過ぎないMicrosoft。そのCEOであるSteve Ballmer氏は,2007年11月に日本で「10年後,自社が管理するサーバーでデータを保持したり,トランザクションを実行したりする企業は無くなるだろう」とまで断言した。既に,主力製品の一つである「Exchange Server」のSaaS展開を始めたほか,2009年前半にはストレージ/データベース・サービス「SQL Server Data Services」を開始する予定だ。

 Bill Gates会長も2008年5月に開催した「TechEd」で,「Microsoftが数百万台のサーバーを運用するようになる」と語り,同社が巨大なデータセンターを構えて,ソフトウエアをサービスとして提供すると強調する(IBMの動きに関しては囲み記事を参照)。

 業界の盟主がこれほどまでに焦るのは,彼らが作り,育ててきたコンピュータ業界の「エコシステム」が,AmazonやGoogleが生み出したクラウド・コンピューティングによって置き換えられようとしているからだ。

 エコシステムとは例えば,OSというプラットフォームに関連して,そのOSで稼働するアプリケーションやデータベースといったサードパーティ製品があり,それらを組み合わせて販売するシステム・インテグレータが存在することを指す。

 これまで,「メインフレーム」「クライアント/サーバー(C/S)」「Webシステム」と変遷してきた企業向け(エンタープライズ)システムはいずれも,IBMやMicrosoftといった単独のベンダーだけでなく,強固なエコシステムによって支えられてきた。プラットフォームの価値は,エコシステムの価値に左右されてきたのだ。