「ネットワークがコンピュータだ」という理想を掲げて米Sun Microsystemsが創業したのは,1983年のこと。それから四半世紀を経て,米Googleや米Amazon.comが,夢を実現した。それが「クラウド・コンピューティング」だ。

画面1●ユーザーが投稿した写真から動画を作成する動画共有アプリケーション「Animoto」
画面1●ユーザーが投稿した写真から動画を作成する動画共有アプリケーション「Animoto」

 2008年4月。創業からまだ半年というスタートアップ企業,米Animotoは大きな決断をした。同社はユーザーが投稿したデジカメ写真と楽曲とを組み合わせてミュージック・ビデオ風の動画を生成し,動画をユーザー間で共有するWebアプリケーションを提供する企業だ。そのアプリケーションを,米国で人気のソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS),「Facebook」で使えるようにしたのだ(画面1)。

 狙いは当たった。わずか3日間で,Animotoのユーザー数は2万5000人から,25万人に急増したのだ。もっとも,スタートアップ企業にとってユーザー数の急増は諸刃の剣。アクセスが殺到してサービスが利用不可能になれば,評判を一気に落としてしまう。

 ところがAnimotoは,ユーザー数が10倍に拡大した3日間で,サーバーの台数を50台から4000台にまで増強してみせた。Animotoの躍進を支えたのは,米Amazon.comの子会社,米Amazon Web Servicesが提供する「Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)」と「Amazon S3(Simple Storage Service)」だ。

 Animotoは,Amazonの仮想マシン・サービスであるEC2上でサーバーを運用し,ストレージ・サービスのS3にユーザーが投稿した写真や動画を保存している。サーバーやストレージをAmazonから「借りる」ことで,ユーザー急増に対応したのだ。

コンピュータはネットの向こうに

 Amazon.comのCEOであるJeff Bezos氏は,同社がAmazon EC2/S3を始めた理由を「我々の使命は,Webアプリケーションのプラットフォーム(基盤)を提供すること」と説明する。Amazon EC2やS3は,同社がeコマース・システム「Amazon.com」を運用するために独自に開発した大規模分散データ処理基盤だ。同社は2006年に,自社が使用するプラットフォームを第三者に公開し始めた。

 Animotoにとって,Amazonが運用する巨大なサーバー群こそが,アプリケーションを動作させる唯一のプラットフォームとして機能している。このような事例がどんどん増えていくことが,Bezos氏の狙いである。

 Animoto自身は,自分が開発した動画作成アプリケーションがどこで稼働するのか意識しない。インターネットにさえ接続していれば,どこからでもどのようにでも,そのリソースを利用できる。

ブロードバンドの普及が実現した夢

 25年前に,このようなコンピューティングのあり方を予言した企業がある。「ネットワークがコンピュータだ(The Network is The Computer)」をモットーに,1983年に創業した米Sun Microsystemsだ(図1)。

図1●クラウド・コンピューティングの歴史
図1●クラウド・コンピューティングの歴史
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 Sunの創業から10年後の1993年,同社のCTO(最高技術責任者)だったEric Schmidt氏は「ネットワークがプロセッサ並みに高速になれば,コンピュータはネットワークに拡散し,ネットワークがコンピュータになる」と語り,「ネットワークの速度向上が鍵だ」と予言した。

 さらに10年後,先進国でブロードバンド・インターネットが普及した2000年代に,夢は現実のものとなった。米Googleの会長兼CEOに転身したSchmidt氏は2006年8月,ネットワークがコンピュータになった現状を「クラウド・コンピューティング」と呼称した(2006年8月9日の「Search Engine Strategies Conference」にて)。

 Googleが提供する「Web検索」「Webメール(Gmail)」「Web地図サービス(Google Maps)」といったソフトウエア(SaaS:Software as a Service)は,ユーザーからはコンピュータの姿が見えない,例えるならば雲(クラウド)のような,インターネットの向こう側で実行されている。