2008年9月30日から10月4日までの5日間,電子工業振興協会主催の総合展示会「CEATEC Japan 2008」が幕張メッセで開催された。5日間の合計入場者数は19万6630人と昨年の20万人に及ばなかったものの,金曜日は展示会場は足を留めることが難しいほど来場者で大盛況だった。

 筆者は10月3日開催のコンファレンス「デジタルコンテンツの未来~コンテンツが架け橋となる循環型社会~」枠において講演とパネルディスカッションを担当。ディスカッションのメンバーは職業能力開発総合大学校通信システム工学科教授の大野邦夫氏をモデレーターに,テクニカルコミュニケーター協会(TC協会)経営企画委員長の雨宮拓氏,小学館法務・ライツ局ゼネラルマネージャーの大亀哲郎氏,東京電機大学出版局局長の植村八潮氏,国立国会図書館総務部企画課電子情報企画室室長の田中久徳氏だった。

 最初にそれぞれの立場から問題提起を行い,後にディスカッションで議論するという構成だ。雨宮氏はテクニカルコミュニケーター(TC)の世界にもデジタル化の動きが活発化しており,コンテンツ流通技術の標準化に対する課題を紹介してデジタルコンテンツにかかる期待の高まりを示した。

※ テクニカルコミュニケーターは、情報を整理してわかりやすく伝える専門家です。たとえば、パソコンなどの情報機器、電気器具や自動車など、さまざまな製品に付属するマニュアル(取扱説明書)を、使い手の役に立つようにわかりやすくすることもテクニカルコミュニケーターの大切な仕事です。
テクニカルコミュニケーター協会Webサイトより引用)

 大亀氏は小学館が行っている電子コンテンツ販売の取り組みを紹介。稼ぎ頭は携帯電話で読む漫画だという。とはいえ見開きのコマをすべて表示できない環境では著作権の,特に同一性保持権の部分に注意を払う必要があると話していた。確かにコマを読み進める順番がコンテンツ制作準備側の解釈と作者の意図とが異なることは想像できる。別途指示書を付けるとしてもワークフローは複雑そうだ。

 植村氏はハードウエアの視点から過去発売されては消えてきた電子書籍向け端末の歴史を紹介。今後コンテンツデータを標準化し,電子書籍にマッチした内容を選んだうえでサービスを展開すべきと述べた。

国会図書館はデジタルアーカイブ制作中

 田中氏は国会図書館が目下急ピッチで進めている書籍のデジタルアーカイブに関する取り組みを紹介した。年間1億円の予算の中で,現状は大正,昭和戦前期分の終了にめどが付いた状態で,現代書籍の作業に手をつけるまではあと数十年を要する作業になるとのこと。それでも所蔵資料のデジタル化は,国会図書館の利便性を高める事業の柱として取組むべき課題と意欲を語る。公開中の児童書デジタルライブラリーや貴重書デジタルライブラリーなどのデータベースを対象にデジタルアーカイブのポータルも運営を初めている。ちなみに同サービスのキーワードランキング(2008年9月5日から2008年10月5日まで)の第一位は夏目漱石だった。

 筆者は携帯端末やサービスの多様化など,デジタルコンテンツを取り巻く最新動向を解説した。特にAndroid端末の登場でクラウドとハードウエアの連携がコンテンツ流通円滑化のカギを握ると予測を展開。コンテンツとサービスとハードウエアをバランスよく連携させることが重要だと説明した。

 ディスカッションでは収益の上げ方に話題が集中した。コンテンツを収集して流通させるインフラ役のグーグルやアマゾンは繁栄しても,出版業界が減収を続ければコンテンツを生み出す側の著述業者などの作者はジリ貧になるのでは?という考えが共通してあったからだ。アップルのようにサービスとハードの両方を一手に扱っている企業も強い立場にあるという意見が多かったように思う。最終的にコンテンツ利用者の利便が高まるように関係各所が切磋琢磨すれば市場は広がる,といった趣旨のまとめとなってディスカッションは終了した。

アップルApp Storeは案外冷たかった

 確かに著述業で対価を得ている筆者としても,雑誌の不振や書籍市場の縮小はひとごとでない。ディスカッションでは触れなかったが,実は筆者は随分前からコンテンツを自分で電子化して売りさばかなければならない時代が来たらどうしようかと,イメージトレーニングだけはしているのだ。もしアップルのサービスが重要な販売チャネルになったとしたら…。早速書籍ラインナップをチェックすべく,iTunesにアクセスしてみた。

 が,電子書籍のラインナップには和書と洋書などが混在している上にカテゴリで仕分けできず検索しにくい。さらに上位の人気作はコミックが占めており,和書の書籍は見当たらなかった。音楽販売コーナーでもバージョン8になってようやくレコメンデーション機能を搭載したiTunesである。書籍の検索効率を上げるなど相当後回しになるのではないだろうか。早くもイメージトレーニングが行き詰まってしまったが,App Storeは人気コンテンツ(上位10作程度)以外には結構冷たいデザインになっているということがわかっただけでも,よしとしたい。