中小事業所を対象に「オフィスで必要なものが明日来る」という新しい通信販売で急成長を遂げたアスクルに、日本IBMを20年間経験した内田洋輔さんは参画した。日本IBMではハードウエア事業からサービス事業への大掛かりな経営改革を、国内だけではなく米IBM本社経営企画の一員としても経験。改革の推進には対話中心のミーティングを含むコミュニケーションが大切というバランス感覚を養った人だ。最後の2年間はアウトソーシング事業部門に在籍。顧客の CIO(最高情報責任者)が、それまでのシステム一辺倒から経営戦略を語り始めるのを見て多くを学んだ。

 お客様中心経営のアスクルは理想の職場だった。アスクルでIT(情報技術)を戦略的に使うことはバックオフィスの効率化にとどまらない。オーダーの取り方から物流まですべてを変えて初めて顧客に負担のないシステムが完成するはずだ。通販は最もネットに近いので移行が容易と考えがちだが、通販の経験が障害になることもある。内田さんはそれを一つひとつひも解いている。

年2回から日々変える仕組み作りに挑む

 カタログ販売では商品の改編は原則カタログ配布時の年2回だけ。半年間商品と価格を据え置きする代わりに約3万7000点の商品は原則品切れ無しで「明日来る」を実現。過去の購買履歴から需要予測をアスクルが行い、それをサプライヤーに伝えることで双方の在庫負担を軽減している。

 一方、ネットでは日々変化する顧客の顔が見えるだけではなく、商品も日々変化させる必要がある。今までのカタログとネットでの新しい仕組みを、オーダーから最短20分で出荷ができる物流システムにいかに乗せるかがポイントだ。フロント業務の変革はバックオフィスのすべてを変えていく。だから、ネットへのシフトによる業務改革には、IT部門だけでなく全部門が参画している。

 お客様の問い合わせセンターを会社のど真ん中に配置し、サプライヤー・エージェント・物流業者がお客様の電子化された情報を共有。お客様の声に基づいた商品企画、バリューチェーンの作り直し、圧倒的に効率のよい仕組みづくりが求められる。気の遠くなるような業務改革は覚悟のうえ。内田さんの挑戦は始まったばかりだ。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA