2005年7月に開業した木田整形外科(福井市)は、開業時から電子カルテと画像診断装置を導入し、両システムの連携による診療業務の効率化、紙カルテレス・フィルムレスを実現している。院長の本田敬宜氏がシステム導入の際に最も重きを置いたポイントは、「シンプルさや操作性などの使い勝手」と、「機能と導入費用のバランスとコストパフォーマンス」だ。同院の導入事例には、クリニックにおける診療現場のIT化によって「いかに費用対効果を見い出せるか」がターニングポイントなのが見て取れる。

クリニックでも電子カルテの導入効果は大

 「医師になって以来、外来カルテを毎年転記する作業やレントゲンフィルムを整理する作業など、常にとても大変な作業量を強いられてきました。独立・開業して小さなクリニックを営んでいますが、業務の効率性や費用対効果の視点から見ても電子カルテの有用性は大きいと考えます」。福井市の木田整形外科・本田敬宜院長は、クリニックにおける電子カルテの効用をこう強調する。

木田整形外科院長の本田敬宜氏
木田整形外科院長の本田敬宜氏

 本田氏が木田整形外科を開業したのは、2005年7月。それ以前は福井県の中核病院である福井県立病院に勤務していた本田氏だが、開業にあたっては当初から電子カルテとレントゲンの画像ファイリングシステムの導入を決めていたという。

 「(福井)県立病院も2003年から電子カルテの導入とPACSの電子化によるフィルムレスに移行していました。紙カルテやフィルムの保管スペース、用材のランニングコスト、医事スタッフを含めた業務の効率化などを考えれば、開業に際して紙カルテやレントゲン画像のフィルム出力は、さらさら考えてもいませんでした」(本田氏)と回想する。

 新規開業のクリニックが開業時から電子カルテを導入するケースは増えているが、クリニックにおいては未だに普及率は低いのが現状だ。その理由はさまざまだが、最大の足かせとなっているのは、初期コスト負担が大きいことだろう。本田氏はその点、「開業するなら最低でもレセコンは必須。大手メーカーのレセコンだと数百万円はかかります。が、レセコン一体型の電子カルテであれば、コスト的にも大手レセコン1台分の初期費用とさほど変わりはありません。紙カルテ管理の煩雑さ、スタッフに対する指示のミス軽減、患者さんに対する説明支援……など、さまざまなメリットを考えれば、クリニックにおいても電子カルテの費用対効果は大きいはず」と指摘する。

大手メーカーの電子カルテは検討外

 本田氏が導入した電子カルテシステムは、医薬品の自動分割分包機など調剤機器設備を手掛けるユヤマの「Brain Box」。無床クリニック向けレセコン一体型の各社製品の中から本田氏が選定したものだが、同氏によると大手の電子カルテメーカーの製品は当初から念頭にはなかったという。

 「病院勤務時代に使っていた大手メーカーの電子カルテが非常に使いにくかった、という経験があったからです。機能が豊富に備わっているからでしょうが、ともかく画面がごちゃごちゃして見にくい。タブやボタンもたくさんあって操作に戸惑うことも多いし、ペンタブレット型のシェーマもありましたが、保存に数十秒もかかるようなシステムでした。そもそも当時は、大手メーカー製のクリニック向け電子カルテが少なかったこともありますが、機能面も含めてクリニックの診療業務を考えて作られていないというイメージが強かったため、最初から大手メーカーの電子カルテは検討候補には挙がりませんでした」(本田氏)。

ペンタブレット入力ができ、Macのような直感的な操作感覚が気に入ったという電子カルテ画面
ペンタブレット入力ができ、Macのような直感的な操作感覚が気に入ったという電子カルテ画面

 そうした理由から大手メーカーを除いて情報を収集し、医療情報システムの常設総合展示場である「MEDiPlaza」にも足を運び、最終的に3社の製品の中から導入を決定したのが「Brain Box」だった。ユヤマは電子カルテベンダーとしては「最後発」(ユヤマ)であり、現在でこそ約600の診療所・クリニックへの導入実績があるが、本田氏は全国47番目の導入で、北陸地方では第1号ユーザーだったという。

 「確かに電子カルテベンダーとしての実績はなかったですが、調剤機器設備販売などを中心としたユヤマ自体の業績はしっかりしているし、営業所が各地にある安心感もありました。電子カルテ事業は将来的にも継続されるのか不安がないわけではないですが、それを言えばベンチャー企業はどこも同じ。それよりも使い勝手や、ベンチャーがゆえに“顔の見えるサポート”が期待できると思いました。北陸地方で第1号ユーザーというのも気持ちをくすぐられました……。そもそも、新しもの好きなのでね」と本田氏は笑う。