図1●色素増感型太陽電池の発電原理
図1●色素増感型太陽電池の発電原理
太陽光が透明ガラス電極に当たると、二酸化チタンに付けた色素が光を吸収し、電子を放出する。電子は二酸化チタン、電極と移動し電流となる
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 色素増感型太陽電池は、既存の太陽光発電に比べて、製造コストが劇的に下がる可能性を秘めている。半導体材料と競合するシリコンや、資源制約のある希少金属も不要で、安価な生産設備で製造できるためだ。

 温暖化対策議論の盛り上がりとともに、自然エネルギーの導入機運が高まっている。なかでも太陽光発電は立地の制約が小さいことから、本命視されている。海外での伸びも著しく、太陽光発電の市場規模は2000年以降、右肩上がりだ。

 太陽電池のコンサルティング会社の資源総合システムによれば、2006年の世界生産量が252万kWだったのに対して、2007年は373万kWと前年比48%増の成長を遂げた。国内市場は2005年度に補助金制度が終了してから頭打ちの状況だが、「価格さえ安くなれば爆発的に売れる素地は整っている」(フジクラ・材料技術研究所長の田辺信夫氏)。

 販売中の製品の9割以上がシリコン(ケイ素)を使ったタイプだが、いま急速に注目を集めているのが「色素増感型太陽電池」である。二酸化チタンと色素を使って発電するタイプで、シリコン系太陽電池に比べて、製造コストを劇的に引き下げられる可能性を秘めている。

 本格的に量産化した企業はまだないが、基礎研究のレベルは超え、複数の国内企業が開発でしのぎを削り、世界をリードしている。多くの企業が2010年の実用化を視野に入れるが、桐蔭横浜大学の宮坂力教授が設立した大学発ベンチャーのぺクセル・テクノロジーズは他社に先駆け、年内にも試験出荷を始め、来年には量産を開始する見通しだ。

二酸化チタンの感度を色素使って向上させる

 色素増感型太陽電池の開発の歴史は意外に長い。1976年に当時、大阪大学教授だった坪村宏氏の研究グループが開発したのが最初だ。材料には酸化亜鉛を使っており、変換効率は1%と低かった。91年になってスイス連邦工科大学のグレッツェル博士が、二酸化チタンを使った方法を発表。変換効率は一気に7%に向上した。その後も多くの研究者が開発に従事しているが、「原理的にはグレッツェル博士の方法から大きく変わっていなかった」(日本化薬・機能化学品研究所の井上照久リーダー)。

 グレッツェル博士の発明した色素増感型太陽電池は、二酸化チタンに色素であるルテニウムを付けたものを、透明ガラス電極と対極で挟み込み、電極の間に電解質であるヨウ素溶液を注入したものだ。

 発電原理はこうだ(図1)。太陽光が透明ガラス電極に当たると、二酸化チタンに付けた色素が光を吸収し、電子を放出する。電子は二酸化チタンに移動し、電極に渡される。電極に到達した電子は対極に回り、三ヨウ化イオンに電子を渡して(還元)、ヨウ化物イオンにする。還元されたヨウ化物イオンは色素に電子を奪われる(酸化)。色素増感型太陽電池に使う二酸化チタンや色素、ヨウ素溶液はこの反応によってほとんど劣化しないため、半永久的に続く。

 色素増感型太陽電池は、色素に何を使うかによって変換効率が変わる。光のエネルギーに占める割合は、紫外線が3%で可視光が47%、残りの50%は赤外線だ。二酸化チタンは紫外線しか吸収しないため、可視光や赤外線を吸収できる色素を組み合わせることで変換効率が向上する。

 グレッツェル博士が見つけたルテニウムは、幅広い波長の光を吸収できる性質があるために多用されているが、各社ともより良い色素を探している。実際、日本化薬は染色技術を生かし独自で開発した色素を採用し、成果を上げた。ちなみに「色素増感」という呼び名は、二酸化チタンの光への感度を色素を使って増幅させることにちなんでいる。