英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム

 ここ数カ月,“クラウド・コンピューティング”がIT業界の流行語になっている。全く新しいコンピュータ技術のように扱われているが,事実はまったく逆である。実態はインターネット・ベースのコンピューティング環境で,広帯域のネットワークと仮想化技術に支えられている。まずは,このクラウド・コンピューティングが自分にどう役立つのか考えてみたい。

 ロンドンにある私の家には,デスクトップ・パソコンが1台,ノート・パソコンが全部で5台ある。デスクトップ・パソコンには家族の情報がほぼすべて入っており,世界のどこにいてもアクセスできるが,クラウド・コンピューティングがあればこのデスクトップ・パソコンが不要になる。クラウド・コンピューティングの利点は,電気代が節約できることと,データを自動バックアップしてくれることである。ウイルスやスパムに悩まされなくなるかもしれない。

 こうしてみると,クラウド・コンピューティングは1960年代に市場を席巻していた米IBMの大型コンピュータの特徴をほぼ備えている。端末の機能を限定し,CPUやアプリケーション,ストレージが集中管理される環境だ。当時は大型コンピュータ向けのソフトウエアが限られていたので,1980年代に登場したパソコンが歓迎された。その後,ブロードバンドとインターネットが普及したおかげでアプリケーションもサービスも選択が増え,今のクラウド・コンピューティング時代を迎えている。

 Web経由のメール・サービスをはじめ,クラウド・コンピューティングによるサービスを私たちは既に利用している。よく知られたサービスに,米アマゾン・ドット・コムのストレージ・サービス「S3」と,ホスティング・サービス「EC2」がある。自前の設備を持てない小規模なビジネス向けである。

他社の情報の扱いに国際規約を

 今年2月,このアマゾンのS3サービスが3時間利用できなくなる事故があり,信頼性に対する疑問の声が上がった。このほか考慮すべき点に,データの機密性の問題がある。カナダ政府は,公共機関のデータを保護する手段として,米国で提供されるホスティング・サービスの使用を禁止している。米国が定めるテロ対策包括法(US Patriot Act)では,米国政府が国内のコンピュータに保存されたコンテンツを調査できると認めているからだ。

 私は,国際連合が主導する形で“サイバースペース権利条約”のような法律を定め,他社の情報の扱い方を規定することを考えた方がいいと思っている。そうすればクラウド・コンピューティングが世界中に普及すると思う。ただ,クラウド・コンピューティングは電力消費の増大をもたらすので,削減手段を模索し続ける必要がある。

 米国のコンピュータ・サイエンティストのジョン・マッカーシー氏は,1960年代に「コンピュテーションはいずれ公的なインフラになるだろう」と予言していた。コンピューティング・サービスにアクセスすることが,そのうちに電気のコンセントや水道を利用するようなものになるかもしれない。

ヨン・キム(Yung Kim)
英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
 英国は本当に経済が停滞し始めている。8月の食品価格は年換算で8.7%も上がった。英国中央銀行の金融政策委員会は公定歩合を5%から上げずに維持しようとしている。インフレに対抗するには金利を上げる必要があるのだが,経済が減速しており実行できない。世の中,一筋縄ではいかないことばかりだ。