最近,データセンターでの電力許容量の枯渇,空調能力の限界に関する問題をよく耳にします。ブレードサーバーをはじめとするIT機器の省スペース化などにより,単位面積当たりの電力消費量が上昇し,それに伴い発熱量が増加していることが主な要因です。また,ITガバナンスが大きく取り上げられ,BCP(ビジネス継続性計画)を具体的に検討する企業が多くなっています。

 その結果,新たなデータセンターへの要求,データセンターの移転計画などが増加しており,データセンター・ビジネスが活発になってきています。今まで自社設備としてデータセンターを有していた企業も,外部のデータセンター事業者の利用を検討するケースが多くなってきています。データセンター事業者は,セキュリティーの強化,自家発電装置の導入,空調の効率化などに積極的に取り組んでおり,ユーザー企業による利用検討を後押ししています。

 外部のデータセンターを利用する場合,「サーバーなどが地理的に離れた位置にある」という面と,「運用は基本的に無人で行う」という二つの面で課題が持ち上がります。以前からデータセンターを外部利用しているIT組織であれば,あまり大きな問題は無いかもしれませんが,自社設備で運用を実施していた場合は大きな変革になります。

 今回は,この課題に対してどのように取り組めばいいかを,ストレージ・アーキテクトの視点で紹介します。

計画時の考慮点

 最初に考えることは,運用に必要な作業を誰が行うかを検討することです。その方法には,(1)自社要員がネットワークを介して作業する,(2)データセンター事業者のオペレータに依頼する,(3)自社のメンバーを少人数データセンターに常駐させて作業に当たらせる,という三つの方法があります。(3)は不可欠なのかどうかをといったことを見極めるには,必要な作業をすべて洗い出すことからスタートします。

 また,(2)データセンターのオペレータに何でも依頼できるわけではありません。依頼する作業が複雑かつリスクのある作業の場合,オペレータは受け入れを渋ります。どうすればリスクが少なく,確実に実施可能となるかを検討する必要があります。

 物理的な作業と論理的な作業に分けて,ストレージの運用に必要な具体的な作業を見ていきましょう。

物理的な作業
 ハイエンド・ストレージの運用でも,ほとんどの場合は物理的な作業が発生します。代表的な作業は,「新規サーバーを接続する際のFCケーブルの敷設,接続」と「バックアップ・テープの搬入,搬出」です。

 現在主流のストレージ接続ケーブルは,LCコネクタの光ケーブルです。イーサネット・ケーブルなどで利用されているRJ-45とは形状も素材も異なるので,オペレータへの依頼が可能かをあらかじめ確認します。バックアップ・テープの搬入,搬出も同じように,利用しているテープ・メディアの種類(LTO,DLT,DATなど)の取り扱いが可能か,テープ・ライブラリがサポートしているか,などを確認する必要があります。テープ・ライブラリのスロットの数が多ければメディアの搬出回数を減らすことは可能ですが,メディア・エラーが発生した場合の交換は必須作業となります。

 搬入,搬出をオペレータに依頼できない場合,テープ装置のみデータセンターに設置せず自社のマシン室に設置し,ネットワーク越しのバックアップを取得することも技術的には可能です。その場合,バックアップ時間を考慮してネットワーク回線の費用を算出し,現実的かどうかを検討することになります。この検討に当たっては,現在では重複除外技術の動向は見逃せません。

 オペレータに作業を依頼する場合は,「依頼プロシージャー」「作業依頼書・設定書」「手順書」の三つの資料が必要です。依頼プロシージャーとは,依頼から実施,完了までのプロセスをまとめた資料。それぞれのプロセスのリードタイムを必ず含みます。作業依頼書・設定書とは,作業を実施するに当たり,必要な設定がすべて含まれるものです。手順書とは,具体的な作業手順を書いたものです。ラック番号やラックの位置,機器の写真などを加えるなどして,誰が担当しても同じ作業が確実にできるように作成します。

 これらの資料を作成する際は,関係者間でレビューを行い,内容が十分かどうかを必ず確認します。必要に応じて,最初の数回はデータセンターにてオペレータの作業支援を行うのも効果的です。

論理的な作業
 個別の設定はベンダーによって異なりますが,主な論理的作業には,以下のようなものがあります。これらがネットワークを介して行えるかどうかを確認しましょう。

○SANのゾーニング,ストレージの設定変更,ボリューム・マスキングなど,ストレージ・レイヤーの一連の作業
○OSレイヤーのデバイスの認識。その際,アプリケーションのI/Oを維持したまま認識可能なのか,リブートなどが必要ないのか,なども確認します。
○パス管理ソフトウエアの設定変更やデバイスの追加。その際,リブートなどが必要ないのかなども確認します。
○アプリケーション・レイヤーへのデバイスの追加