
当社が有料放送サービスを開始してから12年がたつ。最も大規模な顧客管理システムでは、大手ITベンダーと開発や運用で長く付き合っている。ハード調達やシステム開発、運用・保守までをワンストップで提供できる力に期待してのことだ。
一定の成果を出してくれていると評価しているが、歯がゆい思いをすることも多い。そのITベンダーの成果物に、あまり進歩が見られないのである。
特定のITベンダーに継続して開発・運用を任せていれば、ユーザーとしては「前回の経験を生かし、今回はより質の高い仕事をしてくれるはず」と期待するものだ。だが前回並みの成果にとどまることが増えている。当社の顧客管理システムに関する知識や勘所を、ITベンダー社内できっちりと継承されていないことが原因だと見ている。
こうしたことは、ITベンダーのシステム障害への対応でも感じる。ITベンダーの担当者が変わると、以前の経験が全く生かされていない障害対応策が出てきたと思えることがある。過去に発生した不具合の影響範囲や具体的な対応策に関するノウハウが属人化し、新しい担当者に伝えていないのだろう。
人事異動や退職で、開発・運用担当者や管理職が変わるのはやむを得ない。もちろんITベンダーは、業務の引き継ぎはしているのだろうが、不十分だ。開発・運用担当者には、当社のシステムの仕事を通じて得た知識やノウハウを、他の担当者と共有したり、文書化したりする仕組みを作ってほしい。
解せないのは、ITベンダーはメインフレームの時代から現場で培った、優れたノウハウがあるはずなのに、オープンシステムに転用している気配が感じられないことだ。
私は以前、SIerのエンジニアとしてCOBOLによるシステム開発を長く経験した。特に金融機関や公共分野のシステムでは、上流の設計方法論だけでなく、開発や運用のノウハウ集やシステムトラブル時の対処方法までをきちんと体系化していた。
ハードウエアがメインフレームからPCサーバーに変わろうと、開発言語が変わろうと、過去のノウハウは最新の技術にも適用できるはずだ。過去の蓄積を持つ大手ITベンダーが率先して、属人化に陥っているオープンシステムの開発現場を改善してもらいたい。
ITベンダーに対する注文はまだある。理想をいえば、「顧客の言う通りにシステムを作る」という発想から脱却し、自ら顧客に業務のあり方を提案するくらいの気概を持ってほしい。
この点で興味深いのが、顧客管理システム向けパッケージを提供する外資系ITベンダーの取り組みだ。そのベンダーでは、課金や顧客サービスの仕組みに通じた専門家が、自ら業務プロセスを設計し、パッケージを開発しているという。海外では、通信事業者や放送会社が、カスタマイズせずに導入した事例もある。
このITベンダーの提案者は強気だった。「当社のシステムを導入すれば利益が出ます」と断言していた。独自に考えた業務プロセスやマーケティング手法を実践すれば、加入者を増やし解約率を下げられるというわけだ。「ユーザー企業にあった業務ノウハウについては熟知している。最新の業務プロセスは、我々が設計している」。こうした自信があるのだろう。
「当社のソリューションを導入すれば、コストが下がります」。こう言うのが精一杯の国内ベンダーとは違うな、と感じた。(談)