仮想化技術では,「最新」や「初めて」という表現を見かけても注意が必要なことが多い。特定の分野では「最新」でも,広く一般にはそうではないことがあるためだ。10月4日に発売したムック「すべてわかる仮想化大全2009」の編集を担当するチームの一人として,このことを改めて感じた。

 1台のサーバーが複数台のように使えるサーバー仮想化ソフトが一つの例だろう。x86サーバーでは今,VMware Infrastructure 3やLinuxのXen,WindowsのHyper-Vなど非常に多様な仮想化ソフトが利用できる。仮想化ソフトのアーキテクチャもホストOS型からオーバーヘッドの少ないハイパーバイザー型へ移行しており,各種機能がどんどん追加されている。

 しかし,サーバー仮想化はメインフレームやUNIXでは既に当たり前になっている技術である。メインフレームに至っては,1967年に初期の仮想化技術が開発されている。それから40年強がたって,メインフレームやUNIXでは物理分割や論理分割,I/O仮想化などの多彩な仮想化技術が利用可能になっている。

 x86サーバーの仮想化技術はそれに比べると,本格的に利用できる仮想化ソフトがようやく出そろったぐらいの段階だ。実際,x86サーバーの分野で「最新」の仮想化技術は,メインフレームやUNIXのエンジニアには,比較的初期の技術に見えるという。

それでもx86サーバーの仮想化技術の動向は見逃せない

 それでも自分は,x86サーバーの仮想化技術の動向が見逃せないと考えている。出荷台数が多いので,市場が大きいことは注目する理由の一つだ。しかしそれにもまして,x86サーバーという共通のプラットフォームで,多数のベンダーが様々な実装方式や管理機能を競っていることに大きな可能性を感じる。

 メインフレームやUNIXでは,機種を決めると利用できる仮想化技術が自動的に決まってしまう。メインフレームやUNIXマシンであればその機種で利用できる仮想化技術はそのメーカーが用意したものに限られるのである。ベンダーは,複数の仮想化技術を用意していることも多いが,その範囲で必要なものを探すことになる。

 それに対して,x86サーバーでは,前述のVMwareやXen,Hyper-Vなど,複数のベンダーの製品やオープンソースのソフトが利用できる。仮想化の環境を管理するツールについても,仮想化ソフト・ベンダーのツール,サーバー・メーカーの仮想化対応ツール,オープンソースの仮想化対応ツールなど多彩である。それらは単独で利用してもよいし,複数を組み合わせることもできる。

 x86サーバーの仮想化は,技術の段階としては,これからのところが多いとしても,これだけ多くのベンダーや製品があれば,いずれはかなり進化していくと期待ができる。

デスクトップの仮想化という新しい分野に注目

 今回,チームの一人として編集を担当した「すべてわかる仮想化大全2009」はこんなx86サーバーの世界を中心に,仮想化技術の動向をまとめたムックだ。仮想化とは何かという基本的な知識から,実際に仮想化技術を企業のシステムに適用した事例,サーバー仮想化のノウハウや製品の扱い方などをまとめている。「すべてわかる仮想化大全」という名前で発行したものとしては3冊目となるムックで,x86の仮想化技術について最新の情報を掲載すべく,ほぼすべての記事を見直した。

 本書の構成を決める際に意識したのは,x86の仮想化技術がサーバーやストレージ以外に広がっている点だ。例えばデスクトップの仮想化というジャンルについては独立した「部」を設け,複数の記事で詳細に扱っている。デスクトップの仮想化は,クライアントPC側にアプリケーションを直接インストールせずに,クライアントのアプリケーションを利用してもらう技術である。以前はシンクライアントという名前でくくられていたが,最近はその枠に収まらないと感じるようになってきている。ベンダーによって少しずつ実現手法に違いがあり,「プレゼンテーションの仮想化」や「アプリケーションの仮想化」と名前も一定ではない。しかし,本来は動作しないようなアプリケーションを利用可能にするなど,クライアントPCをより広く活用しようとする点で,目的が同じだと感じている。