ニューヨーク州の中部にある小さな街コーニングは、当社の本社がある企業城下町であるため、従業員のほとんどが終身雇用だが、私は幹部の中でも数少ない中途入社組だ。だから、入社した時に強くコーニングの文化というものを感じたし、それを尊重したいと思っている。その文化はIT(情報技術)部門の大きな特徴にもなっている。
当社の文化を一口でいうと「製品の革新」といえる。電球ガラスばかりを作っていては、世界最大のガラス製品メーカーにはなれなかった。ガラスやセラミックという製品をどう使うかについて常に研究と開発を重ね、さらに、優れた製造部門を生み出すことにもコミットしてきたから、今日の当社の姿がある。
「革新」という伝統を最大限に生かすために、現在はIT関連費用の80%を製造オペレーティングに費やしている。つまり、細かな製品ごとに異なる製造部門を持つ分散的な組織構造であっても、経営幹部らが全社的なオペレーションを実施しやすくするために任意の製品やビジネスをとりまとめるITに積極的に投資している。
当社はほかの製造業と異なり、IT部門を1つのビジネスユニットとして見ている。最終製品を扱う部門であれば顧客にベストな価格と品質を提供すべきなので、IT部門も社内に提供するサービスを最も低価格で最高の品質にすることを目指す。このためIT部門の中に、製造部門とタイアップする製造チームと、エンジニアリング部門とタイアップするエンジニアリングチームを持ち、社内顧客であるほかの部門に対して一貫したベストの技術やソリューションを提供する努力をしている。
多くの製造業では製造過程の技術にかかわるのはIT部門ではなく、プラントエンジニアリング部門だ。しかし、当社ではIT部門の約3割の人員がプラントエンジニアリングを担当し、非常に重要な役割を担っている。例えば、生産ラインで何か問題が起きた場合、すぐに現場で、問題を再発させないためにどんな情報が必要かを調べ出すのはIT部門の責任となっている。
IT部門が製造部門を定期的に調査
4年前から、製品の流れ、生産のコントロール、全製造工程の情報統合など6つの分野に関して、それぞれの工場でIT部門が評価作業を始めた。いくつかのシステムを各工場がどう使いこなしているかを見極め、さらなる生産性向上のためのアクションプランに結びつける狙いがある。
製造部門は日々の生産目標を達成するのに必死なため、生産性向上につながる評価調査を早く進めてほしいと、IT部門へのプレッシャーは強い。ただし、何らかの問題に対しIT投資をしたいと製造部門から提案してきても、工場全体の生産性向上を考慮し、IT部門は拙速なソリューションを提供したりしない。技術に人が使われては何もならないし、誰もが使えなければならない。提供するITは現場でどんな成功につながり、どうやってそれを実現するのかを見据えたものでなくてはならない。
逆に言うと、扱う製品が多岐に渡った当社のような非中央集権的な組織では、「このソリューションがいいですよ」と言って、すべての工場にそれを押し付けることはできない。しかし、ある工場で1つでも成功例を示すことができれば、ほかの工場もそれを導入してみたいと思うだろう。成功するCIO(最高情報責任者)としては、こうしたサクセスストーリーをどうやって全社に示すことができるか、というのが重要だ。
例えば、4年前に初めての評価プロジェクトを各工場で実施し終えた時、私は「今回の評価作業をさらなる全社的な改善に結び付けられないか」と考えた。そこで、異なる製造部門に属する数人の従業員を集めて、繰り返しミーティングを開き、各自の持ち場の現状を話し合った。そのうえで、各自が考えている改善策を全社的に使えないかどうかを踏まえて新たな評価項目を作り出し、46カ所の工場に対して評価作業を行った。結果は、どの工場にも同じ問題点があり、同じソリューションを使えることが分かった。
非常に時間がかかるし忍耐も必要だが、こうした業務改善プロセスを踏むことによって、1つの成功例を広く全社に広げる努力をしている。
米コーニング上級副社長 兼 CIO