2008年9月17日,国内のIT系ネット・メディアの編集長6人が一堂に会し,座談会が開かれた。IT業界を取り巻く環境と,ネット・メディア自身の変化について,ディスカッションしようと日経BP社が呼びかけ,各メディアがそれに応じて実現した。

 参加した編集長は,メディア名順で以下の通り。@IT編集長の三木泉氏,builder編集長の冨田秀継氏,CNET Japan編集長の別井貴志氏,ITmediaエンタープライズ編集長の浅井英二氏,エンタープライズ・メディア統括 兼 ZDNet Japan編集長の大野晋一氏。そこにITpro編集長の三輪芳久が加わった。なお,参加した6編集長のうち,@IT編集長の三木氏は米ラスベガスからSkype音声での参加となった。司会は,ITpro発行人の林哲史が務めた。(前回の記事はこちら

@IT builder CNET Japan
ITmediaエンタープライズ ZDNet Japan ITpro

ITproの読者は,どちらかというと情報システム部門やSEとかですけれども,ZDNet Japanは必ずしもそうではないようですね。

大野晋一氏(ZDNet Japan編集長):
 ZDNet Japanでは,そこのところのトランジション(切り替え)を,2007~2008年に必死でやりました。今までは,アクセス元のドメインを見ても,IT業界の方やエンジニアの方が多かったのです。そこをもう少し,その先にいらっしゃる方々にアクセスして行きたいと考えました。LOB(Line Of Business)の方々です。

浅井英二氏(ITmediaエンタープライズ編集長):
 私はITmediaエンタープライズとITmediaエグゼクティブという,ちょうど上下関係/兄弟関係のメディアを2つ担当しています。残念ながら日本発のITは少なくなっていますが,ITを利用したり活用したり,その知恵比べにおいては,海外企業に勝たなければなりません。そのために必要な色々な情報を提供するのだという意識は,我々も同じです。

浅井英二氏(ITmediaエンタープライズ編集長)
浅井英二氏(ITmediaエンタープライズ編集長)

 先ほど,日本のIT業界が元気ではないという話がありました。この背景には,日本が根本的に受託開発,つまり言われたことをそのままコーディングする仕事を中心としている状況があると思います。受託開発の世界に留まっている限りは,より安価な中国やインドに発注するという議論に行ってしまいます。最近,情報システム部門の幹部の方にお会いすると,やはりみなさん,そこに危機感を持たれています。

 業務について一番よく知っているのは現場だと言われてきましたが,現在では必ずしもそうではありません。組織やシステムが複雑になると,業務の現場においては片方から来たデータを,もう片方に渡しているだけになり,業務の全体像や,なぜ自分がこの仕事をしているのか,ということが見えなくなります。実は,ここに情報システム部門が生きていく道があると言われています。情報システム部門は,業務全体の神経系を司っており,業務プロセスの全体を見渡せるからです。

 こうした理由から,現在では誰が業務プロセスに責任を持つべきか,という議論が起こっており,CIO(最高情報責任者)こそ相応しいと言われています。こうした考え方に変わっていけば,コーディングよりももっと大事なことがあるという流れになると思います。

本来なら経営的な視点で判断しなければならないことってありますよね。M&Aにしても経営の問題ですよね。ITmediaエグゼクティブは,経営的なところにもスコープしているんですね。

浅井氏:そうですね。この領域で色々な方が発言しているんですけれど,やはり最終的には経営を変えないと永遠に何も変わらないと思います。情報システム部門の人たちがどんなに高い志を持っていても,行き詰まってしまいます。IT戦略は経営をそのまま反映しますから,経営にリーチする必要があります。

 日本の会社の多くは,経営者の下に経営企画室を置き,そこで優秀な人たちが働き,経営者を補佐しています。したがって,経営企画の人に伝えることも有効です。

大野氏:世の中に対する実効性を考えても,今この時点で我々がフォーカスすべきは,政治で言うと首相ではなくて,官僚の方々です。「データを集めていらっしゃる方々に対する価値の高いデータソース」ということをZDNet Japanでは必死に考えています。もちろん,データの価値を高めるためには事実だけでなく,分析や予測,提言といったものも入れていかなければなりません。