筆者は甘党というわけではないのですが,和菓子を大好物としています。贈り物は自分が欲しいと思うものを贈るのが基本ですから,客先へ中元や歳暮を持参するときは,地元にある「☆屋」の和菓子を持参します。客先が「タカダ先生も,どうぞ」と勧めてくれようものなら,その場で自ら封を開けて半分は食べ尽くしてしまいます。

 ☆屋をヒイキにするのは,和菓子の出来のよさだけではなく,オカミさんが中学生時代の同級生という縁もあります。この歳になって,いまだに「タカダくぅん」と,「くぅん」づけで呼ばれるのは妙に心躍るものがあります。

 ☆屋は地元でも評判の和菓子屋なのでそれなりの業績を上げているのですが,需要予測の難しさが悩みのタネ。これについては改めて説明するとして,今回は☆屋にアドバイスした「売れ筋の見極めかた」を紹介しましょう。

差異の種類が多ければ良いというものではない

「そうね,売れ筋の見極めかたについて,タカダくんのアドバイスは随分と参考になったわよ」
☆屋はそれまで「どんぶり勘定」をしていたから,帳簿を整理して「売れ筋差異」をあぶり出すまで,苦労したけれどね。
「あら,失礼なことをいってくれるじゃないの」

 オカミさんは怒った顔をしながらも,その涼やかな眼差しは中学時代と変わらぬものがあります。

 雑談を続けていては読者も飽きるでしょうから,☆屋で扱っている和菓子「おもいがわ」を取り上げます。この商品名は,筆者の住む栃木県小山市の西部を流れる思川の名にちなんだものです。「おもいがわ」には,松(豪華版)・竹(標準)・梅(お買い得)の各グレードがあって,それぞれの箱に収められる構成が異なるとともに,販売価格も異なるように設定されています。

 ここでは説明を容易にするために,拙著『実践会計講座/管理会計入門』340ページにある〔図表12-23〕の様式を,次の図1にそのまま用います。均衡P/L(注1)の意義や各差異の算出方法については,同書320ページ以降を参照してください。また,図1では,同書〔図表12-23〕のうち固定費と経常利益の各行,予実差異と差異判定の各列を省略しています。

図1●売上高に関する差異分析表&図2●販売数量差異の分解

「初めて図1を見たときは,目を回しちゃったわよ」
初めて見る人は,みんなそう言うね。でも,図1の基本構造は,理解してしまえば至って簡単。原価差異分析に似ていて,売上高についても販売価格差異と販売数量差異に分解できるのだから,その有用性は折り紙付きだよ。しかも,図1の右端にある販売数量差異は,次の図2で売れ筋差異と変動利益数量差異に分解できる。図1は商売を営む以上,必ずマスターしておかないといけない表なんだ。

「図1では縦に展開されていた販売数量差異が,図2では横に展開されるのね」

 図1から図2への展開(注2)は難しいものがあるので,計算過程は割愛させてもらいます。詳細は『管理会計入門』341ページ以降を参照してください。

「タカダくんの説明では,赤の『売れ筋差異』と,青の『変動利益数量差異』を同列に見るな,ということだったわよね」
その通り。

 特に注意してほしいのは,青系統の「変動利益数量差異」。これ自体には,差異としての価値が何もないことに注意する必要があります。この差異にあえて意義を見出すとしたら,赤系統の「売れ筋差異」を浮かび上がらせるための「噛ませ犬」みたいなものと考えていい。差異分析では一般に,差異の種類を増やせば精度が向上するだろう,と考えられているところがありますが,そうした風潮には警鐘を鳴らしたいものです。

「松や竹の売れ筋差異がマイナス(▲印)になっているのは,あまり好ましくないのよね?」

 図1の実績P/Lを見ると,3つのグレードとも変動利益で黒字を確保している。しかし,図2の売れ筋差異を見ると,梅に偏在していることが分かります。

「確かに,『おもいがわ』全体については,ちっとも儲かっている気がしないのよねぇ」
売れ筋差異を把握せずに闇雲に販売するのも問題だけれど,利幅の小さい商品に偏るのも問題があるということだね。それを売れ筋差異は示してくれるんだ。和菓子のような小品といえども,侮ってはいけない問題なんだ。

「話はこれで終わりじゃないんでしょ?」
続きは次回にて。

(注1)販売価格は予算どおり,販売数量は実績どおりと仮定した変動損益計算書
(注2)販売数量差異の売れ筋差異と変動利益数量差異への分解

■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/