2008年9月上旬に,BSデジタル放送で利用している衛星の一つである「BSAT-2c」のトランスポンダ(電波中継器)に,障害が相次いで発生した。9月11日にはWOWOWとBSジャパンが使っているトラポン(第3チャンネル)の出力が低下し,両社の放送が午前1時45分から約8分間中断した。9月14日にはBS日本とBSフジが使用するトラポン(第13チャンネル)の出力が低下し,両社の放送が午前4時3分から約9分間中断した。BSAT-2cを運用している受託放送事業者の放送衛星システム(B-SAT)は,予備衛星の「BSAT-3a」を使って,これらの放送を復旧した。同社は現在,BSAT-2cを製造した米Orbital Sciencesとともに,障害の原因を調査している。

 これまでも,通信衛星や放送衛星に障害が発生することはあった。例えば2005年7月22日には,JSATが運用する通信衛星「JCSAT-1B」のトラポンに障害が発生した。JSATは障害が発生したその日のうちに,トラポンの不具合の状況や経緯,原因調査状況などの情報をWebサイトに掲載した。その後も,復旧に向けた予備衛星の軌道位置への移動状況や業績への影響などを随時発表した。

 今回の場合もBSAT-2cのユーザーである放送事業者によると,「同衛星の障害については,B-SATからその日のうちに連絡を受けた」という。しかしWebサイトでの公表は,最初の事故が発生した6日後の2008年9月17日であり,迅速な対応とは言い難い。B-SATは原因の調査結果を,「ユーザー(放送事業者)や株主,総務省に説明する」としているが,「報道機関を対象にした会見を開くかどうかは,現時点では分からない」という。

 B-SATが運用しているBSAT-2cは,「準基幹放送」であるBS放送で使われている。BSデジタル放送受信機は2008年8月末に普及台数が4000万台を超えるなど,国民に対する影響力は強まっている。今回の障害が発生したのはいずれも深夜から未明であり,視聴者が少なかったため大きな騒ぎにはならなかったのかもしれない。しかし,今回の障害が平日のゴールデンタイムや週末などに発生していれば,視聴者に与える影響は大きかったはずだ。BSデジタル放送の準基幹放送としての信頼感が揺らぎかねない。

 総務省はBSデジタル放送と東経110度CS放送を一体化した普及政策を推進し,東経110度衛星放送としてより存在感のあるメディアに育てようとしている。BSデジタル放送が中断するという事態が再び起こることは,総務省の計画の不安材料になりかねない。総務省はB-SATに対して,障害の原因究明と再発防止策の検討を要請した。同社からの報告を受けて,事故発生後の対処や再発防止に向けた対策に不安があると判断した場合は,「行政指導を行うことも,一般論としてはあり得る」としている。