写真●サッポロビールは「黒ラベル」でカーボンフットプリントを試験的に表示し、洞爺湖サミットに参考展示した
写真●サッポロビールは「黒ラベル」でカーボンフットプリントを試験的に表示し、洞爺湖サミットに参考展示した
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 カーボンフットプリントの導入議論が本格化している。今年度中に算出方法の共通ルールに関するガイドラインを作る。詳細な食品安全表示を進めてきた食品業界の理解を得られるかどうかが焦点になりそうだ。

 カーボンフットプリントとは、商品の製造から輸送、廃棄の全行程のCO2排出量を算出して表示すること。経済産業省が6月に立ち上げたカーボンフットプリントの研究会の議論が本格化し、方向性が見えてきた。研究会には、流通業界と食品、日用品メーカーら19社が参加しており、12月の展示会、エコプロダクツ2008での試験導入を目指して検討を進めている。

 議論開始以降、自社商品のライフサイクルアセスメント(LCA)でのCO2排出量を公表する企業が相次いでいる。サッポロビールもその1社で、「黒ラベル」にカーボンフットプリントを表示して、洞爺湖サミットで参考展示した。CSR部社会環境室の渥美亮課長代理は、「数値は暫定的なものだが、早くからLCAに取り組んできた企業姿勢を見てもらたい」と話す。議論開始の今は絶好のPR時期であり、自社の算定方法をルールに反映させたい思惑もありそうだ。

ISO標準化の主導権を狙う

図●サッポロビールのCO2算定例
図●サッポロビールのCO2算定例
販売時や消費者の購買に関するCO2は算定外。各工程間の輸送分は算定対象だ
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 経産省が取りまとめるガイドラインには、すべての品目に適用できる共通ルールを盛り込む。具体的には4つの論点がある。第1が、CO2排出量を減らすためにグリーン電力証書の購入や植林、CO2の回収・貯留などを実施した場合の扱いだ。

 第2が、原料栽培時に農地から排出されるメタンなどの排出量の扱いである。まだ科学的にも完全には把握できていないため、国際的な課題でもある。第3が土地の改変に関するものだ。森林を伐採し田畑に変える際の建設機械などからのCO2排出量と、失われる吸収源としての森林分をどう算出すべきかが問題になる。

 この3つはいずれも、まもなく検討が始まるISO(国際標準化機構)の規格化議論の論点でもある。カーボンフットプリントは英国が先行しているといわれる。しかし、LCA研究の第一人者である東京大学の稲葉敦教授は、「具体的な算定方法の研究では日本と大差ない。ISO議論で主導権を取るためにも、国内ルールを早急に取りまとめたい」と意気込む。

 研究会では、第4の論点の流通段階におけるCO2排出量の扱いも検討する見通しだ。通常のLCAでは対象外だが、流通業界がカーボンフットプリントに強い熱意を持っているためだ。

 注目されるのは、食品業界の対応。工業製品は、以前からLCAデータを公開しているが、食品の実績は少ない。しかも、非常に細かく正確な食品の成分表示とカーボンフットプリントは性格が異なる。カーボンフットプリントは、自社でそろえられないデータを産業連関表などで補うため、あいまいさを残す。「食品業界には、商品と完全にはリンクしない表示を成分表示と並べることに不安の声がある」(農林水産省)。消費者に表示の本質を理解してもらえるかどうかも課題になりそうだ。