最近の調査発表(図1)でも見られますが,企業が保有する情報量は,今後飛躍的に増加していく傾向にあることが想定されています。

図1●IDCのリサーチでは、2010年までに情報量が現在の6倍に増加
図1●IDCのリサーチでは、2010年までに情報量が現在の6倍に増加

 現在にも増して,情報,つまりデータの管理場所として,ストレージ基盤を採用する機会が増えていくでしょう。もちろん,磁気ディスク・メディアの技術革新により集積度が高まったり,その他のストレージ・メディア(SSDなど)が登場したりすることで,データの増加と比例して物理的なストレージ装置が増えることにはならないと思いますが,今後さらに,ストレージ基盤の重要性が高まっていくと容易に想像できます。

 ただ,ストレージ基盤の代表であるハイエンド・ストレージを自社で運用管理しているケースは,国内では少ないのが実情です。同じITの共有基盤であるネットワークは,基本的な運用管理とその構成変更などは,自社要員,もしくは協力会社の方が実施する場合が多く見られます。1990年代後半からのオープンシステムの台頭により,PCサーバーやUNIXサーバー,メインフレームなどから利用できるストレージ装置が登場してきましたが,その運用管理,特に構成変更や性能管理はブラックボックス化されていました。情報システム部門の担当者は,効率性よりもリスクを考え,それらの作業はストレージ・ベンダーに任せっきりという状態が今も多くの企業で続いています。

 しかし,状況は変わりつつあります。欧米の企業には情報システムを自社運用する文化があり,ストレージ・ベンダーに,「容易に使えること」という機能要求がかなり早い段階から寄せられていました。そうした要求に応えてきたことで,ハイエンド・ストレージの管理性は改善され,数年前から,ほかのプラットフォーム(例えばネットワーク・ルーター)と同程度に使いやすくなっています。また,国内のストレージ管理の現場においても,ここ数年,多くの顧客から「ストレージ基盤を自社要員で運用したい」「構成変更や性能管理も実施したい」との要求が寄せられるようになりました。

 ハイエンド・ストレージを自社運用する環境は整いつつあります。ほかのプラットフォームの技術者に比べ,ストレージ基盤の技術者はまだまだ少ないので,今後の重要性を鑑みると,ストレージ・アーキテクトへの道はITエンジニアの存在価値を向上させる一つのチャンスだと思います。

 では,ハイエンド・ストレージを運用するには,具体的に何を知識として押さえ,どんなことを実践すればいいのでしょうか。ここではそうしたポイントを6つにまとめました。

1.SAN,NASのアーキテクチャの概要を理解する

SANのトポロジー
 物理的なトポロジー(サーバー~HBA~ファイバ・ケーブル~SANスイッチ~ファイバ・ケーブル~ストレージのホストポート)は,まず最初に理解したいポイントです。どのような経路を通ってデータが流れているかを知ることが,耐障害性や,性能管理の出発点です。

 経路を理解する際,物理的な結線と,論理的な設定の双方の理解が必要です。物理的な結線を把握する際,HBA,SANスイッチのカード,ストレージのホスト・ポートの冗長性や,交換時の影響などを考慮しておくことが肝要です。論理設定の一つに,ゾーニングがあります。ゾーニングには「ポートゾーニング」と「WWNゾーニング」の2つの方法があります。

SANスイッチの種類
 SANスイッチには「ダイレクタ・タイプ」と「デパートメント・タイプ」の2種類があります。SANが大規模になってくると,1台で数百ポートまで搭載可能なダイレクタ・タイプのSANスイッチを利用することが多くなります。8~32ポート程度のデパートメント・タイプのSANスイッチを利用するか,ダイレクタ・タイプを採用するかは,SANの規模(接続されるサーバー台数やストレージ筐体数など)に大きく依存しますので,自社の規模と将来計画を参考に決定していく必要があります。

NASの種類
 NASはデータのやり取りにIPネットワークを利用します。さまざまなタイプのNAS製品がありますが,ハイエンドのカテゴリでは,NAS専用のサーバー(NASヘッドと呼ぶ)が搭載されたストレージになります。押さえておくべき点は,NASヘッドの冗長性,ネットワーク・インタフェースの冗長性,領域の拡張性,バックアップ手法,などです。