WANの接続部分について,トラブルに強い冗長化構成を取る際のポイントをまとめる。どのような冗長構成を選択すべきか,また冗長化の際にある落とし穴にはまらないためにはどうすべきか,実際にあったトラブル事例から留意すべき点を述べていく。

 日本情報処理開発協会の調査によると,2005度のシステム障害の原因で最も多かった理由が,ネットワーク機器の障害だった(図1)。ネットワークはインフラ中のインフラであり,ほかのシステムのダウンよりも影響が広範囲にわたる。強いネットワークを作ることは,止まらないシステムを作るうえで基本と言える。

図1●システムダウンの原因の1位はネットワーク
図1●システムダウンの原因の1位はネットワーク
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 コンピュータの性能向上や普及率のアップに伴って,ネットワークに流れるデータ量は昔に比べて大容量になった。並行してWANの技術も進歩し,データ量に見合った大容量のWANサービスが登場した。

 ただしATM専用線などの品質の高い専用線は,企業の全拠点で使うにはコストがかかりすぎる。このため多くの企業は,回線品質を多少落としてでも,大容量で安いベストエフォート回線を使うようになっている。

 こうしたインフラに基幹システムが乗るため,当然ながら安定度は下がる。フレッツの障害などの教訓から,基幹システムが止まった場合の損失とバックアップにかかる費用を試算して,ネットワークや機器の障害に強い冗長化構成を検討する企業が増えている。

システムが求める帯域は常に変動する

 最近のVPNルーターの多くはICMPメッセージによる障害検出機能を備えている(別掲記事を参照)。このためNTT東日本のフレッツ・グループアクセスやNTT西日本のフレッツ・グループなどのエントリーVPNやインターネットVPNといった,ネットワーク障害時にキャリア側から障害通知メッセージが来ないサービスを利用していても,専用線同様に冗長構成を取れるようになった。

 フレッツなどの広帯域なブロードバンドをメイン回線として利用する場合でも,バックアップにはISDNが根強く使われている。1Bチャネルが64kビット/秒のISDNは2チャネルを束ねても128kビット/に秒しかならない。しかし固定電話の品質からもわかるように障害がほとんどないため,基幹業務に必要な帯域を満たせるならバックアップにISDNを選択する企業が多い。

 ここで留意すべきことは,システムが必要とする帯域が常に変動していること。現時点だけでなく将来導入予定のシステムを見据えたうえで,帯域に問題がないかを検討する必要がある。特にネットワークとサーバーやミドル/業務アプリケーション開発を別々のSE会社に任せていて,その間での連携がない場合には注意する。

 かつて富士通がネットワークを請け負ったA社は,冗長化構成を採ったネットワーク・システムを数年前に構築した。当初の基幹システムは64kビット/秒の帯域でも利用に耐える設計だった。ところが業務AP開発を請け負ったB社が数カ月前に基幹システムの業務アプリを改修した結果,ネットワークに必要なトラフィック量が増加した。しかしA社のネットワーク担当者は,改修の事実を把握しておらずネットワークの帯域はそのままだった。

コスト増だが専用線を使う例も

 この状況の下,A社がアクセス回線として利用するフレッツADSLの地域IP網で設備故障が発生し,バックアップへ切り替え処理を実行した。ところが,複数台の端末で利用するにはISDN 1チャネルでは帯域が不足し,レスポンスが非常に遅くなって使いものにならなかった(図2)。

図2●ISDNを利用する場合は基幹システムの使用帯域に注意
図2●ISDNを利用する場合は基幹システムの使用帯域に注意
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 幸いにもA社はISDNのもう一つのBチャネルを利用していなかった。このため,ISDNの接続設定を1チャネルから2チャネルに変更し,さらに通信データを圧縮したことで問題を回避できた。

 それではISDN2チャネル,つまり128kビット/秒ではバックアップ回線として帯域が足りない場合はどうするのだろう。コストは多少上がるが,重要な拠点の基幹業務は広域イーサなどを,そのほかの業務はBフレッツ通信を使うという冗長構成を取ることが多い(図3)。広域イーサの障害時にはBフレッツにすべてう回し,Bフレッツ障害時にはほかの業務のうち重要なものだけを広域イーサでバックアップする構成である。

図3●アクセス回線は広域イーサとブロードバンドの組み合わせで信頼性を高められる
図3●アクセス回線は広域イーサとブロードバンドの組み合わせで信頼性を高められる
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