7月にiPhone 3Gが発売されたのは,日本,香港,オーストラリア,ニュージーランド。8月22日からは,インド,シンガポール,フィリピンでも販売が始まった。初代iPhoneが販売されていなかったアジア・オセアニア地域では,待望の初上陸となった(表1)。

表1●アジアとオセアニアで提供されるiPhone 3Gの本体価格と料金プランの例(2008年8月時点)
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表1●アジアとオセアニアで提供されるiPhone 3Gの本体価格と料金プランの例(2008年8月時点)

世界的にはユニークな日本の料金体系

 日本での販売権を獲得したソフトバンクモバイルは,7月の月間純増数が21万5400増と他社を大きく引き離した。同社は機種別の販売数を公表していないが,米ゴールドマン・サックス・グローバル・インベストメント・リサーチの調査では,発売直後の3日間で7万台を販売したという。この調査からも,iPhone 3Gがソフトバンクモバイルの純増数増加に大きく貢献したと見られる。

 ソフトバンクモバイルのiPhone 3G向け料金プランは,データ通信に関しては「S!ベーシックパック(i)」と「パケット定額フル」の組み合わせによる1種類だけ。データ通信で利用するパケット数が1万2250パケット(約1.5Mバイト)までで月額2324円,それを超えると従量課金が適用され,7万1250パケット(約9Mバイト)超ではいくら使っても月額7280円である。SMSも無制限に利用できる。ソフトバンク同士の音声通話は午前1時から午後9時までは無料だが,それ以外の時間帯は21円/秒である。

 この料金体系は,実は非常にユニークだ。まず,2段階のデータ定額プランは海外のiPhoneでは見当たらない。香港のハチソンやオーストラリアのテルストラなどでは,使用頻度別に複数の料金プランを用意しており,利用可能なデータ通信容量や音声通話,SMSの上限を設定している。例えば,ハチソンのローエンドのプランでは,月額188香港ドルで音声通話が500分,データ通信が500Mバイト,SMSが15通までそれぞれ利用可能だ。上限を超えた分は従量課金となる。

上位プラン加入で端末無料の国も

 もう一つの大きな違いは,端末の価格設定だ。ソフトバンクモバイルでは,新規契約で24回分割払いのスーパーボーナスで購入する場合,8Gバイトモデルが2万3040円,16Gバイトモデルが3万4560円。月額料金が2324円だとしても,本体価格は変わらない。

 これに対して,香港,オーストラリア,ニュージーランドの各事業者では,料金プランによって端末の価格が異なる。ハイエンドの料金プランを選択すれば,端末の本体価格が実質無料になることも珍しくない。

 オーストラリア最大手のテルストラの場合,月額80豪ドルのプランで8Gバイトモデルが,月額100豪ドル以上のプランで8Gバイトと16Gバイトモデルが無料となる。

 一方,月額30豪ドルのプランでは,8Gバイトモデルが279豪ドル,16Gバイトモデルが399豪ドルになる。ただし,いずれの場合も契約期間は24カ月が必要だ。

韓国と中国市場には上陸の予定なし

 iPhone 3Gは,意外にも韓国や中国では販売計画が発表されていない(8月中旬時点)。アップルとしては,「2008年中に1000万台」という目標に向け,何としてもこれらの巨大市場で販売を開始して販売台数を伸ばしたいはずだが,いずれの地域でも早期に販売できない事情があるようだ。

 韓国ではW-CDMA/HSDPAが利用できるうえに,公衆無線LANサービスも整備されている。iPhone 3Gを利用するには非常に恵まれた環境だが,年内の発売予定国に含まれていない。この理由は,「WIPI(ウィーピー)」と呼ぶ,韓国独自のアプリケーション・プラットフォームを採用することが,韓国内での端末販売の条件になっているからだ。当然のことながら,iPhoneはWIPIに対応していない。

 中国では,初代iPhoneに関してアップルと携帯最大手のチャイナモバイルが交渉していたが,収益分配を巡って交渉がいったん決裂したという経緯がある。インドなどは,ボーダフォンをはじめグローバル展開する事業者の販売対象地域だったために速やかに販売が決まったが,中国の場合はグローバルな事業者は存在しない。チャイナモバイルなど地元の事業者と個別に交渉する必要がある。

 さらに,3Gネットワークはチャイナモバイルが今春から北京や上海など主要都市で商用実験を開始したものの,無線方式は中国が推すTD-SCDMAである。iPhoneが搭載するW-CDMAは,チャイナモバイルと競合するチャイナユニコムが通信業界再編後にサービスを提供する予定だが,具体的な時期はまだはっきりしていない。仮に年内にiPhone 3Gが中国で発売されたとしても,W-CDMAの体制が整うまでは2Gでの利用に限定されそうだ。