欧州では,ほとんどの国で年内にiPhone 3Gが販売される。このうち7月から販売が始まったのは,アイルランド,英国,イタリア,オーストリア,オランダ,スイス,スウェーデン,スペイン,デンマーク,ドイツ,ノルウェー,フィンランド,フランス,ベルギー,ポルトガルの15カ国である(表1)。

表1●欧州で提供されるiPhone 3Gの本体価格と料金プランの例(2008年8月時点)
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表1●欧州で提供されるiPhone 3Gの本体価格と料金プランの例(2008年8月時点)

 2G版の初代iPhoneは,米国に比べて欧州での売れ行きは決して良いとは言えなかった。例えばフランスではフランス・テレコム(ブランド名「オレンジ」)が11月から販売を開始し,発売初日から最初の5営業日で3万台を販売して好スタートを切ったものの,人気は長く続かず最終的には約10万台にとどまったという。ドイツもT-モバイルが11月から販売していたが,販売台数は4万台程度にとどまったようだ。

 初代iPhoneが欧州で振るわなかった理由として,(1)本体の価格が高い,(2)2G(GSM)ではデータ通信を満足に利用できない,(3)iPhone対抗の端末が豊富にある──などが挙げられる。特に欧州市場は,フィンランドのノキアのシェアが高い。「ノキアを中心に欧州の端末ベンダーが,iPhoneに対抗できるマルチメディア端末を数多く投入していた。それらに比べてiPhoneは高額だったため苦戦を強いられた」と,情報通信総合研究所の渡辺研究員は分析する。

 そんな欧州でもiPhone 3Gの立ち上がりは順調のようだ。T-モバイルは,ドイツで発売初日だけで初代iPhoneの3分の1以上に相当する1万5000台を販売した。オーストリア,オランダでも完売が相次いだという。フランスでも,発売後は品薄となり「入荷日になると大行列ができた」(パリ在住の片桐義博OECD日本政府代表部一等書記官)と反応は良いという。片桐氏は「初代iPhoneに比べて価格が4割近くも安いうえ,3GネットワークでストレスなくWebが閲覧できることから,ヒットの可能性は十分ある」と見る。

無制限でも一定容量以上は制御

 欧州は,販売事業者の数や料金プランなどで,日本とは事情が異なる。イタリアやオーストリア,スイスなどでは1カ国で複数の携帯電話事業者がiPhone 3Gを販売している。

 また,スウェーデンのテリアやドイツのT-モバイルなどは,法人向けの料金プランを提供する。法人向けプランは,サービス内容自体は個人向けと変わらないが,月額料金と端末の料金を個人向けに比べて低価格で提供している。

 欧州でも,データ通信無制限の定額サービスを提供している事業者はごくわずかだ。英国のO2,イタリアのTIM,ドイツとオランダのT-モバイル,スペインのテレフォニカ・モビルズ(ブランド名「モビスター」),フランス・テレコムの5事業者だけで,全体の4分の1に過ぎない。

 iPhone 3G向け定額データ通信サービスの料金水準を,既存の定額サービスに比べて安価にしている事業者もある。例えば,フランス・テレコムの場合,iPhone 3G向けに月額料金が49ユーロから149ユーロまで5段階の料金プランを用意している。いずれもデータ通信が使い放題で,音声通話時間やSMSの送信回数,公衆無線LANサービスの接続可能回数に応じて月額料金が変わる。同社の既存の定額サービスは月額119ユーロ以上。iPhone 3G向けの料金プランは,ユーザーに受け入れられやすくなった。

 データ通信量が一定値を超えると通信速度を制限する事業者もある。テレフォニカ・モビルズが用意する月額料金15ユーロと25ユーロの定額プランでは,いずれも一定量を超えると速度が制限される。上限値は,月額15ユーロのプランの場合に200Mバイト,月額25ユーロのプランでは1Gバイトである。