米アップルの「iPhone 3G」は,2008年中に世界70カ国・地域で販売される計画である。既に7月から,日本をはじめとする22カ国・地域で一斉に発売され,8月からはインドなど20カ国で新たに販売が始まった。アップルは販売目標として「2008年中に1000万台」を掲げており,7月11日の発売から3日間で100万台を売り上げたことを明らかにした。

 ただし,iPhone 3Gは世界中で満遍なく売れているわけではないようだ。米ゴールドマン・サックス・グローバル・インベストメント・リサーチの調査によると,iPhone 3G発売直後の販売台数100万台のうち,1位の米国が60万台と突出して多い。次いで日本(7万台),ドイツ(6万9000台),フランス(6万7000台),スペイン(5万5000台),英国(2万9000台)の順になっている。米国だけで全体の6割,上位6カ国だけで9割近くを占める計算だ。

世界では意外に少ない定額データ通信

 この6カ国でiPhone 3Gを販売する事業者の料金プランを見ると,ある共通点が浮かび上がる。それはどの事業者も,データ通信を無制限に利用できる定額制を導入したことだ。

 実は,データ通信の定額制の導入プランを導入する事業者は意外に少ない。上記6カ国以外では,香港のハチソン・テレコミュニケーションズ(ブランド名「3」),イタリアのテレコム・イタリア・モバイル(TIM)とオランダのT-モバイルくらいである。しかも,ハチソンとTIMの場合は,上位の料金プランでなければ無制限に利用できない。

 iPhone 3Gの場合,ブラウザでWebページを閲覧したり,インターネットと連動したアプリケーションを利用したりするなど,データ通信を使う機会が多いと想定される。このため,W-CDMA/HSDPA(3G/3.5G)など携帯電話のネットワーク上でiPhone 3Gをフルに活用するとなると,従量課金ではあっという間に高額のパケット通信費用を請求される恐れがある。逆に言えば,ユーザーにiPhone 3Gを満足して利用してもらうためには,事業者は定額かつ安価な料金プランを用意する必要がある。

 携帯電話ネットワークを使ったデータ通信定額サービスのほか,公衆の無線LANサービスを料金プランに盛り込んでいる事業者も多い。iPhone 3Gは,携帯電話のデータ通信のほかに無線LAN(IEEE 802.11b/g)通信機能も搭載している。公衆無線LANサービスが使える場所であれば,ユーザーは3Gよりも高速な無線通信を利用できる。事業者から見ると,データ通信による携帯電話ネットワークの負荷増大を回避する手段になっている。

米国ではローエンドプランでも月額90ドル

 北米では,米国とカナダで7月11日にiPhone 3Gの販売が始まった(表1)。

表1●北米と中南米で提供されるiPhone 3Gの本体価格と料金プランの例(2008年8月時点)
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表1●北米と中南米で提供されるiPhone 3Gの本体価格と料金プランの例(2008年8月時点)

 米国では,初代iPhoneに続きAT&Tモビリティが独占販売している。iPhone 3G向けの料金プランは,ローエンドが月額69.99米ドルで450分の音声通話利用が含まれる。月額129.99米ドルというハイエンドの料金プランでは,音声通話が使い放題になる。いずれもデータ通信は無制限だ。

 さらに「米国では公衆無線LANサービスの普及が進んでおり,有力な通信手段になっている」(情報通信総合研究所の渡辺祥グローバル研究グループ研究員)といい,iPhone 3Gを利用しやすい環境に恵まれている。

 ただし,「料金水準は,一般の米国市民にとって高い」(エノテック・コンサルティングCEOの海部美知氏)。海部氏によると,米国の携帯電話のARPUは約50米ドル。つまり,iPhone 3Gの月額料金は20米ドル以上も高い。

 しかも,iPhone 3Gで導入された月額料金には「米国で一番よく使われるデータ通信サービス」(海部氏)というSMSの通信料金は含まれていない。初代iPhoneでは200通分のSMS通信料金が含まれていたが,iPhone 3Gでは追加オプションなのだ。

 結局,ローエンドのプランでも,SMSの追加料金や税金などを支払うと,月額85~90米ドルは必要となる。データ通信,音声通話,SMSのいずれのサービスも使い放題にするとなると,月額149.99米ドルに跳ね上がる。ユーザーに広く受け入れられにくい料金プランと言えそうだ。

プリペイド中心社会の中南米では苦戦か

 中南米では,7月にメキシコで最大手のアメリカ・モビル(ブランド名「テルセル」)が先陣を切ってiPhone 3Gを発売した。8月からは,ペルーやチリなどでも販売が始まった。

 販売エリアが一気に拡大するものの,中南米ではiPhone 3Gは広く普及しそうにない。「もともと携帯電話を所有しているのは,富裕層に限定されている。しかも,プリペイド契約が圧倒的多数である上に,3Gネットワークもまだ始まったばかり」(KDDI総研調査1部制度・政策グループの菅谷知美研究員)だからである。

 アメリカ・モビルが用意するiPhone 3G向けの料金プランを見ても,富裕層をターゲットにしていることがよく分かる。同社は4種類の料金プランを用意しているが,最も安くても月額459ペソでデータ通信容量はわずか100Mバイトまで。データ通信無制限のプランだと,月額料金は1399ペソになる。メキシコの全世帯平均所得は月額9541ペソで,4割以上が5075ペソ未満。メキシコでは,一部の富裕層を除けば,iPhone 3Gは敷居が高い端末なのだ。