政府の知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」が,コンテンツ関連の法制度の見直しについての議論を進めている。2008年9月18日の第7回会合では,インターネット上に流通する違法コンテンツ対策について議論した。論点の一つになったのが,著作権法における「間接侵害」への対応である。間接侵害とは,第三者による著作権侵害を誘発する行為のことだ。

 デジタル技術やネットワーク技術の進歩を背景に,放送番組の配信やファイル共有など,新たなサービスが登場した。その結果,これまで見られなかった間接侵害が発生している。放送番組の配信サービスについては過去に,放送事業者がサービスを提供する事業者を相手取った訴訟を何度か起こした。そのうち日本デジタル家電が被告となった訴訟では,東京地方裁判所がサービスの停止と733万円の支払いを命じた判決を出した。永野商店が原告となった裁判では,放送事業者の主張を退けた。日本デジタル家電は親機を購入してユーザーにレンタルする仕組みで,永野商店の場合はユーザーが親機を購入する。テレビ番組の受信・録画機能を持つ親機を保有したり管理したりする主体が事業者であるかどうかで,裁判所の判断が分かれた。

 サービスの停止などの判例が出た背景には,「カラオケ法理」という著作権法上の解釈がある。過去に日本音楽著作権協会(JASRAC)と飲食店が,カラオケで歌う楽曲の著作権使用料の支払いを巡り裁判で争ったことがあり,裁判所は飲食店に使用料の支払いを命じる判決を出した。「飲食店の従業員などが自らカラオケを歌っていなくても,カラオケ機器を置くことで客を集めて対価を得たり,この機器を整備したりすれば,自分で歌っているのと同じ」という理由からだ。放送番組の配信サービスやファイル共有サービスの提供事業者に関する裁判では,このカラオケ法理を発展させて適用するケースが少なくない。

 個人が海外にいる際に自宅の受信・録画機器からインターネット経由で視聴するのは合法であるのに,放送番組の配信サービスは受信・録画機器の所有権の所在によっては間接侵害とみなされる。調査会の会長を務める中山信弘・弁護士は,海外滞在者などを対象にした放送番組の配信サービスについて,「これによって著作権侵害の被害を受ける権利者はいないと思う」と述べた。放送事業者が訴訟を起こした背景については,「県域免許の体制が崩れるという別の問題がある」とした。さらに,これらのサービスの提供事業者が裁判で間接侵害の行為者とみなされないようにするため,「フェアユースを適用できないか」と主張した。

 このようなフェアユースの活用論に対して上山浩・弁護士は,「カラオケ法理の存在によって,(放送番組の配信サービスが)フェアユースの対象外と解釈される恐れもある」として,どの行為が間接侵害となるかを法制度上明確にすべきと主張した。事業者が萎縮しないようにしたいという思いだろう。実際に永野商店が録画機器を預かる行為を自主的に取りやめるという現象が起きている(放送番組のリアルタイム転送サービスは継続)。調査会の委員からは,著作権法や不正競争防止法を見直すなどして,コンテンツ関連の法制度を新たなビジネスの創出や発展を妨げないものにするという強い意識がうかがえる。