◆今回の注目NEWS◆

オンライン利用拡大行動計画(IT戦略本部、9月12日)

【ニュースの概要】IT戦略本部は9月12日、「オンライン利用拡大行動計画」を発表した。手数料を紙の申請の半額にすることや、ICカード不要の申請方式などについての検討が明記され、利用者視点の方針が盛り込まれている。


◆このNEWSのツボ◆

 遅々として進まないオンラインでの電子行政手続きの利用拡大のために政府が計画をまとめた。

 これまで、この種の政府の発表では、「手続きのオンライン対応率90%超」であるとか、「○○のオンライン申請利用率△△%」といった、景気の良い数値が並んでいるのが通常であった(例えば総務省「平成19年度における行政手続オンライン化等の状況」)。

 しかし実態は、「オンラインで申請ができますよ」といった程度の形式的な仕組みの整備にとどまっており、手続きの煩雑さや、利用コストに配慮が行き届いていたというケースはほとんどないと言ってよく、書面や対面による手続きと比べて利便性が高いと考えられるケースは稀であった。

 このため、行政手続きのヘビーユーザであり、また、ITの利用環境も整っている企業関係の手続きでは利用率が高いが、個人関係ではほとんど利用が進んでいないというのが実態だったと考えられる。典型的な事例は、鳴り物入りで開始された、パスポートの電子申請が、事実上廃止されてしまったケースであろう(関連記事)。

 こうした個人関係のオンライン行政手続きが進まない大きな理由は、(普及が進まず、また、利用も面倒な)ICカードと公的個人認証システムを多くの手続きで採用していた……という点であろう。筆者は、この点は何度も本コラムで指摘してきた。今回の行動計画でようやくその点も含めて見直しが本格化したことは、正しい方向であるとは思うが、あまりに遅い……というのも否定できない事実である。

 ここまでに投下された、電子政府やオンライン手続き推進のための行政コストは膨大である。住基カードシステムは、今現在も、システムとネットワークの維持に相当なコストがかかっているはずである。今までの行政の方向が正しくないと思えば、それを見直すことは必要だ。他方、同時に、過去に投入されたコストの責任も明確にして欲しいと思うのは人情であろう。筆者も経済産業省在籍時代には、電子政府推進の一端で仕事をしていたので、内心、忸怩たる思いがするのも事実である。

 今日、インターネットを介して、膨大な金額の金融取引が行われているし、様々な経済活動が実行されている。こうした活動の基本は、便益と費用とリスクを勘案した「責任ある自己判断」である。セキュリティは極めて高いが、使いにくくて利用率がゼロに近いような手続きを作れば、利用がないから事故も発生しないし、リスクもないだろう。しかし、今日の財政状況は、そうした無駄遣いを許すような状況でも無いはずである。行動計画では「利用率が極めて低調である等の手続のオンライン化については見直しを図る」としているが、きちんと見直しが行われるかについては厳しい外部チェックが必要であろう。

 何%の手続きをオンライン化した……といったように「形」ばかりにとらわれるのではなく、数は少なくても良いから、本当に便利で、コストとメリットとリスクが見合うオンライン化が推進されることを期待したい。

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安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。