マイクロソフト 代表執行役 社長 樋口 泰行氏
マイクロソフト
代表執行役 社長
樋口 泰行氏

 企業において、経営とITとの関係はこれまで以上に不可分になった。ネットワーク経由で様々なソフトウエアを利用する、クラウドコンピューティングの環境も整いつつある。一方、消費者に密着した分野では、PCだけでなく携帯電話やテレビも含めた多様なデバイスが、ネットワークにつながることで利便性を高めている。

 とりわけ、技術とネットワークの進化がもたらしたクラウドコンピューティングには、重要な意味がある。ブロードバンドを通じて、以前は難しかった大容量のサービスも安価かつ容易に手に入る。CRMなどの領域で成長するSaaSも、クラウドコンピューティングの一種と言えるだろう。

 SaaSのようにソフトウエアをサービスとして利用するスタイルには、様々なメリットがある。グローバルで利用しやすく、導入も容易。変化対応の俊敏性にも優れており、顧客に代わってサービス提供者がシステムを運用してくれる。一方、ソフトウエアを保有する従来のスタイルにも、多くのメリットがある。セキュリティの高さやカスタマイズのしやすさ、自社によるコントロールの確保、データアクセスのスピードなどである。

ソフトかサービスかという二者択一でなく両者の融合

 私たちが目指すのは「ソフトウエアの保有か利用か」という二者択一ではなく、両者の融合による価値の追求だ。つまり、「ソフトウエア or サービス」ではなく、「ソフトウエア+サービス」である。

 実は、ソフトウエア+サービスはすでに様々な領域で行われている。例えば、従来デスクトップソフトウエアとして提供されていた会計ソフトのベンダーは、ネットワーク経由でのサービス提供も始めている。同様の動きはERPなどの業務アプリケーションにも見られる。アプリケーションのコア部分はソフトウエアとして残し、それに付随するコラボレーション機能などをサービスとして提供するのである。こういった動きは、今後さらに加速するものと考えられる。

多様なデバイスの連携とシームレスなデータ共有

 企業の情報システムにおいても、ソフトウエア+サービスは有効である。いち早くサービス化が進むのはCRMや電子メール、コラボレーションなどの領域と考えられるが、すべてをサービス化することは困難だ。財務会計や人事給与、SCMなどに関しては企業内での設置が適している。特に、企業の競争力に直結するソフトウエアは自社で保有し、戦略に合わせて改変する必要があるだろう。

 ソフトウエア+サービスの形態には、いくつかのタイプがある。図に示したように従来のソフトウエア保有型とSaaSによるサービス提供に加えて、その中間に2タイプの形態がある。

 ビルディングブロック型は、主に開発者が新たな価値を生むためのプラットフォームを提供する。コアとなる業務アプリケーションをベースに、地図などの付加情報をマッシュアップするという形だ。このタイプには、クラウド上のデータベース利用なども含まれる。もう1つのアタッチサービスは付加価値サービスであり、例えばセキュリティ機能やソフトウエアの更新を、ネットワーク経由で行うといった形である。こうしたハイブリッドな利用法によって、ソフトウエアとサービスそれぞれのメリットを両立する仕組みを構築できる。

 ソフトウエア+サービスのハイブリッドによって、企業は大きなメリットを手にできる。IT部門は蓄積したノウハウを自社保有のソフトウエアに投入する一方、サービスを活用して運用コストを低減できるだろう。また、サービス利用ではオンラインの状態が維持される必要があるが、PCを使う際にはネットワークに接続できないこともある。ソフトウエア保有を組み合わせれば、そうした不都合を回避して高速レスポンスを実現できる。

 財務の観点でのメリットもある。サービスによってオフバランス化する部分と、自社資産として保有し自由に変更できる部分を切り分け、最適の資産構成を追求することが可能となる。

 マイクロソフトが追求するソフトウエア+サービスの世界。それは多様なデバイスが連携し、シームレスにデータを共有できる環境である。こうした環境を実現するために、当社の掲げる戦略のポイントは4つある。第1に、デバイスやソフトウエア、サービスを問わず、一貫した操作性を提供すること。第2に、企業内サイトやホスティング、サービスなどを利用する際、それらの間の移行がスムーズであること。第3に、ソフトウエアやサービス、その融合環境における開発モデルを、開発者に対して提供すること。第4に、多くのパートナー企業との協業というビジネスモデルを維持すること。

 こうした基本戦略に基づいて、マイクロソフトはソフトウエア+サービス時代に向けた開発を加速している。それを通じて、お客様のビジネス価値の最大化に貢献したいと考えている。