コマツ 代表取締役会長 坂根 正弘氏
コマツ
代表取締役会長
坂根 正弘氏

 私が社長に就任した2001年度、コマツは初めて130億円の営業赤字に転落し、経営構造改革が急務であった。そこで、「経営の見える化」「成長とコストの分離」「強みを磨き、弱みを改革」「大手術は1回だけ」の4つをキーワードに改革を推進した。

 まず、競争力を失っている原因は固定費であり、製造コストの問題ではないことをデータで従業員みんなに説明し、「経営の見える化」を改革の第一歩にした。成長論者はコストの問題を温存しがちだが、成長とコストは分けて考えた。成長を当てにせず、コストを徹底して詰める。生産現場に比べコスト削減の取り組みが遅れている間接部門は“宝の山”だ。そして、何度も手術をすると体力がもたないため、大手術は1回のみとすることにした。

 日本が円高に苦しんだ1990年代、国内でモノを作ってもコストに見合わないという議論が社内にあった。だが、私は米国で仕事をした経験から、日本はモノ作りのコストで負けているのではなく、事業の選択や集中、そしてモノ作り以外の業務の無駄により、競争力を失っているのだと考えていた。そこで、私が社長になって、まず変動コストと固定コストを厳密に分ける米国流の会計方式で、コスト構造をよく分析したところ、米国のライバルと比べて、粗利率ではまったく一緒であるのに販売費および一般管理費と称する固定コストの部分でいつも6%差があり、この6%の差がそのまま売上高営業利益率の差となっていることが分かった。一方、製造コストは、当時日本が最も低く、モノ作りの競争力があることもハッキリと確認できた。

 コマツの経営構造改革のポイントは「強みを磨き、弱みを改革」することである。弱みばかりを議論しがちになるが、競争力を高めるためには強みを磨くことを忘れてはならない。

 それでは、コマツの強みはどこにあるのか。当社の強みであるモノ作りの競争力をさらに磨くため、ダントツ商品の開発やITの活用、成長市場であるアジアでのポジション向上に注力することを改革の目標にした。

グローバルな生産体制はITの有効活用が不可欠

 一方、弱みの改革では固定費の削減に取り組み、まず販売費と一般管理費にメスを入れた。さらに、非建機事業の自立再生を図るため、連結対象の関連会社を統廃合。世界トップクラスの技術力を持っていた半導体製造装置事業は、本業との接点がないため他社と合弁会社を設立した。こうした固定費の見直しにより、2年間で約500億円を削減している。

 そして、弱みの改革にはコーポレートガバナンスの強化が不可欠であると考えた。そこで、子会社を含めた取締役会の実質性の向上やコンプライアンスの徹底など、信頼度を高めるための、すなわち、企業価値を高めるための施策を実行したのである。

 経営構造改革を推進するための4つのテーマを掲げた。その第1が「トップの現場密着」である。現場と現実を直視し、トップ自らが現場へ方針を明示するなど、現場に立脚した経営を行う。第2は「方針展開」。トップダウンのみならず、継続的な改善の実現にはミドル層の力が不可欠。ミドルアップ、ミドルダウンがあって初めて改革は速やかに推進される。第3には社内の部門間、代理店、協力企業など「パートナー間の連携」、第4にはグローバルレベルでの「人材育成」を掲げた。これらはグローバルレベルで事業展開する日本企業の共通のテーマだと考えている。

 コマツの経営構造改革の成果は、まず米国のライバルを上回る営業利益率の劇的な改善に現れている。また、モノづくりの強みを生かしたダントツ商品の開発がある。環境と安全、ITをキーワードに商品を開発した。例えば建設・鉱山機械では、2007年までの累計で55機種のダントツ商品を市場に投入している。

 強みを磨くために欠かせないのがITの活用である。私の経験を基に活用事例を紹介する。

 1990年代に米国の小松ドレッサーカンパニー(現コマツアメリカ)の社長を務めていた時のことだ。当時、コマツでは自前の社内システムを作り、その仕組みを米国に持ち込んでいた。だが、米国では頻繁に従業員が替わる。そのたびに日本から担当者を呼んで操作方法を指導していたが、変化に即応できない。グローバル事業では状況の変化を前提にITを考え、標準的な部分とカスタマイズする部分を分ける必要があることを痛感した。

 そこで、米国ではコマツの自前主義をやめ、市販の統合基幹業務パッケージを導入。日本も自前主義をやめるよう助言し、世界各地の拠点で統一された設計図面(グローバル設計BOM)と基幹業務システムを導入した。

 その効果は絶大だ。例えば、日本でモデルチェンジした場合、米国が追随するのに1年余りの時間がかかっていた。しかし、設計図面や部品表の統一などITの活用により、世界各地で同時進行できるようになったのである。

海外留学や駐在経験でグローバルな人材育成

 継続的な経営構造改革を推進するため、グローバルな人材育成にも注力している。資源の乏しい日本企業がモノ作りをはじめ、競争力を高めるには人材育成がポイントになると考えているからだ。当社では早くから海外留学制度やビジネスリーダー研修に取り組み、多くの人材を海外に送り出している。また、グローバルな人材を育成するうえで海外駐在経験が重要になる。特にモノ作りを担う生産技術者の管理職は、海外駐在経験者が少なくない。

 また、2006年にスタートした第2次経営構造改革では、バリューチェーン改革を推進。海外の関連会社の人たちにもプロジェクトに参画してもらいながら、人材育成を進めているところだ。

 その教材として「コマツウェイ」を作成している。先輩が成功・失敗の経験の中から築き上げてきたコマツの強さ、行動スタイルやノウハウといったものを明文化した。冒頭には、私が記載した「社長のコマツウェイ」があり、取締役会の活性化などを示している。グローバルレベルでの「コマツウェイ」の共有・定着を通じ、企業価値の最大化を目指す狙いがある。