日立製作所 代表執行役 執行役副社長 情報・通信グループ長&CEO 篠本 学氏
日立製作所
代表執行役 執行役副社長 情報・通信グループ長&CEO
篠本 学氏

 企業におけるIT活用には4つのステージがある。業務のIT化、部門内での最適化への活用という最初の2つのステージは、ITによる合理化の時期である。第3ステージとなる企業やグループ企業を含めた組織全体の最適化への活用との間には、「経営の壁」があり、約7割の企業が第2ステージにとどまっている。最後の第4ステージである社外の関係先を含めた共同体としての最適化への活用には、さらに「企業の壁」が存在するが、グローバル化におけるIT活用では、第4ステージに進むことが求められている。

 グローバル化でのIT活用のためには、「現地最適化」と「グローバルな統制・共通化」の両立が必要。2009年度に海外売上高比率45%を目指す日立グループでは、グループの広範な事業領域を統合して、企業価値を最大化する「IT One Hitachi」の実現をグローバルITビジョンに掲げている。

グローバル経営を支えるITガバナンスモデル

 日立グループでは、企業プラットフォームと経営プラットフォームをグローバル化したうえで、現地、あるいは事業ごとの事業プラットフォームを構築するというITガバナンスモデルと、事業グループとグループ会社ごとにCIOを置くCIO体制によって、現地・事業最適化とグローバルな統制・共通化の両立を目指している。具体的には、「Global IT Hi-Way構想」のもと、全世界でIT基盤の水準を引き上げ、IT業務プロセスを見える化・標準化する。

 そのうえで、事業ごとに現地法人にIT化施策を展開するビジネスチャネルと、ITの構築・運用支援を海外拠点に展開するリージョナルチャネルの2つのガバナンスチャネルを働かせ、各CIO体制でその2つの整合性を図りながら、グローバルなIT化を推進している。

 企業プラットフォームとしては、人員データベースと全社の認証基盤を統合し、人事異動があっても必要なアプリケーションを世界中どこからでも即日、利用できるようにした。また、ディスクレスのセキュリティPCの導入を全社で推進し、モバイルでの情報漏洩対策を高度化するとともに、オフィスでのフリーアドレスを実現した。2007年度末時点で、全社全拠点で5万台のシンクライアントが導入されている。

 経営プラットフォームとしては、国内最大のe-マーケットプレイス、TWX-21を活用して、全世界の取引先を含めた調達の効率化を実現した。

 事業プラットフォームとしては、製品含有化学物質の一元管理システムを構築して、各事業の製品ライフサイクルにおける化学物質情報を一元管理し、RoHSやREACHなど世界の化学物質規制に全社共通の仕組みで対応している。また、グローバル製品供給計画システムを構築し、ストレージ事業で実施している。日々の業績を可視化してデータをモニタリングし、意思決定のための経営コックピットを提供している。

ITを意識させない統合ITプラットフォーム

 現在、地球規模の課題が顕在化しており、グローバルに多くの「知」を結集して対処していかねばならない。これからの経済的価値、社会的価値を生み出すのは企業、個人、公共にわたる知の連携であり、競争からコラボレーションへという新たな“協創”の時代に入ったと言える。従来の関係を越えた“協創”はすでに新しい価値を生み出している。自動車に電気モーターやマイコンが加わったハイブリッドカー、乗車券と電子マネー、入退出管理も可能なICカード乗車券、トラックとGPS、物流ノウハウで生み出される物流の最適化などだ。そこでは、ITが社会に大きな役割を果たしている。

 グローバルなITのあるべき姿は、知がどう創造されていくかを考えると見えてくる。リアルな世界から情報を収集し、蓄積して成長につなげるには、ITによる知の連携が欠かせない。ITには、社会から知を抽出し、価値をリアルな世界にフィードバックする知的創造の加速装置としての役割が求められている。それが新たな“協創”を生み出す原動力になる。

 日立建機では、世界に50万台ある建設機械類の稼働状況を把握し、データを蓄積・知識化して、生産性と信頼性の向上につなげている。TWX-21はSaaS型サービスを拡大し、知的交流の場へと発展していく。今、注目されているグリーンITでは、各機器からデータを収集し、運用ノウハウを蓄積して、最適化することで、2012年度にデータセンターの消費電力最大50%削減を目指している。

 こうした知の連携を支えるITプラットフォームは、ITを意識させない統合ITプラットフォームでなければならない。論理層と物理層が仮想化によって統合され、リアルな世界からは、場所を選ばずグローバルにITリソースを活用できる環境を提供していく。

 当社は、人と地球にやさしい知的創造社会の実現のために、実業とITを掛け合わせ、知の融合を実現することで、新たな“協創”による社会のリノベーションに貢献したいと考えている。