
矢野 薫氏
地球環境問題の深刻化や経済のグローバル化、それにユビキタス社会の進展など、時代は大きな転換点を迎えている。ユビキタス社会では、豊かなライフスタイルへの変化や安心・安全な社会の実現が期待され、誰でも簡単に情報を利用できるIT環境が求められる。現在、人と地球に配慮しながら、グローバル化する経済の中で打ち勝つために、企業は何をすべきかが課題になっているのである。
そのためのビジネスイノベーションの方向性として、「人と地球へのやさしさ」があげられるだろう。それを追求することが企業の新たな付加価値となりグローバル市場への展開のポイントになる。具体的には、ユビキタス技術を活用した「人にやさしい顧客サービス」「人にやさしいワークスタイル」といった“人”への配慮とともに、“地球”環境にも配慮した企業活動の実践が必要だということである。
ITの積極的な活用で人にやさしい働き方を実現
「人にやさしい顧客サービス」に向け、NECは金融や携帯電話など様々な分野で豊富な実績を持つ。例えば、インターネットや次世代ネットワーク(NGN)上での、課金や認証などのサービス基盤の活用で、いつでも、どこでも快適で安全なサービスを提供できる。
また、ブロードバンドやモバイルの活用により、時間と場所にとらわれない「人にやさしいワークスタイル」の実現も可能だ。当社では2006年から2000人の社員を対象に自宅での「テレワーク」を実践し、仕事と家庭(育児・介護など)の両立を支援してきた(現在は対象者を拡大)。「テレワーク」で重要になるセキュリティはシンクライアントの活用で確保し、社内とのコミュニケーションにはビデオ会議を利用することで、新しいワークスタイルが可能になる。
生産現場での「人にやさしいワークスタイル」は、NECパーソナルプロダクツの事例がある。同社では人手を介して行っていた検品作業などを、RFID(ICタグ)の活用で自動化した。バーコード読み取り作業の排除などで、作業効率を最大20%向上させている。
その結果、従業員が働きやすい環境の実現だけではなく、RFIDの活用で情報のリアルタイムな入手が可能になった。現場では生産のリードタイム短縮など様々な効果が生まれ、ものづくりを革新している。日本のものづくりの強みは高い品質にある。グローバルに広がるサプライチェーンの中で、ITで国内同様の品質確保を支援する仕組みが重要になるだろう。
人と地球にやさしい情報社会に向け企業の革新を支援
温暖化対策を背景に「地球にやさしい」企業活動が不可欠になっている。企業にとってムダ・ムリ・ムラを削減する工夫が重要だ。総務省の報告書では、PC端末やサーバー、インターネット利用などの増加によって消費電力が増え、2012年のCO2排出量は3000万トン増加すると試算されている。一方、電子商取引や情報化による人の移動の削減などITの活用で、CO2排出量6800万トンの削減が可能だ。IT・ネットワークの活用で資源効率の向上を図り、環境負荷低減を促進する取り組みが企業に求められている。
当社における環境対策の実践例を紹介しよう。「NECブロードバンドオフィス」では、ペーパーレスやWeb会議、「フリーデスク」などの取り組みを通じ、オフィスのCO2排出量を約40%削減した。「フリーデスク」で社員は書類を保管する場所がないため、紙の使用量やコピー量を大幅に削減する一方、情報はストレージに保管するなどの工夫を図りながら、オフィスの省エネ化を進めている。

こうした「人と地球にやさしい」企業活動に欠かせないのが、IT・ネットワークインフラの整備である。例えば、社内の各部門に配置しているサーバーやストレージの統合。そのコスト削減効果や省電力化に加え、統合による運用の一元化でシステム管理者や社員の運用工数を大幅に削減できる。
こうしたIT・ネットワークインフラでは、システム全体での省電力化がポイントになる。当社の取り組みとして、「REAL IT COOL PROJECT」がある。従来の当社製品に比べ約62%の省電力が可能なシンクライアントシステムや、最大55%の省電力が可能なサーバーなど、省電力技術を採用したプラットフォームを開発している。
当社はこうした様々な実践を通じてノウハウ・技術を蓄積し、製品・サービスに反映させ、企業の新たな付加価値の創出とグローバル市場への展開をサポートする。その目的のため、パートナーと共同で、グローバルなサービスプラットフォームを活用すべく、基盤整備に取り組んでいるところだ。
そして、デジタルデバイドの解消やユニバーサルデザインの推進など「人にやさしい情報社会」、先進技術で環境対策に貢献する「地球にやさしい情報社会」を目指す。このように、NECでは情報社会の発展に貢献し、グローバル市場で打ち勝つ企業のビジネスイノベーションを支援していく。