日本ヒューレット・パッカード 代表取締役 社長執行役員 小出 伸一氏
日本ヒューレット・パッカード
代表取締役 社長執行役員
小出 伸一氏

 1939年にシリコンバレー発祥の地で創業した当社は、現在、17万人の従業員を抱え、世界170カ国で事業を展開するまでになり、売り上げ10兆円を超えた。事業のポートフォリオとしてはパソコン事業が36%、プリンタ事業が27%を占め、サーバーやストレージ、サービスなど幅広く展開している。

 地域別に見ると、年率16%成長している欧州が42%、同じ成長率のアジアが19%、成長率4%の米国が39%となっている。特にBRICsでの成長率は高く、ここ数年で地域別のポートフォリオは変化するだろう。また、EDSの買収が完了すれば、サービスの売上比率は倍増し、製品・サービス別のポートフォリオも大きく変わる。

 売上高10兆円を超えても2桁成長を続ける当社の製品やサービスは、ハードウエア、ソフトウエアともに世界でトップクラスのポジションにあるものが多い。24時間ごとに、14万台のプリンタとPCが出荷され、40万台のデバイスをリモートで管理し、お客様からの35万件の連絡に対応している。こうした量と質の要求に応えるには、グローバル企業としての機敏な経営戦略と卓越した実行能力が必要になる。

インフラとビジネスのレイヤーが分離したIT

 企業を取り巻く環境の変化に伴い、CEOの課題も変わってきた。グローバル経済へ対応するためには、グローバルレベルでの事業の最適化が求められ、そのためには、変化を先取りする機敏な経営戦略と、グローバルな事業展開を支える、徹底した現場での実行能力が問われている。一方、アンケートなどからCIOに求められる優先順位を見ると、イノベーションや地域展開、M&Aなど機敏な経営戦略に対応したものと、コスト削減や効率化といった実行能力に結び付くものが上位にあげられている。今までのように経営からの依頼に対応できたかどうかではなく、ITがいかにビジネスに貢献できるかが評価の基準になってきた。

 つまり、機敏な経営戦略と現場での実行能力を可能にするITが求められている。それは、インフラレイヤーとビジネスレイヤーが分離されたITである。インフラレイヤーはテクノロジーの進化によって仮想化され、必要なITリソースを必要なタイミングで利用できる。一方、ビジネスレイヤーは、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できなければならない。

 そのためには、従来のような垂直統合ではなく、それぞれのレイヤーが独立して水平統合されている必要がある。さらに、インフラレイヤーとビジネスレイヤーが独立したITが、グローバルな経営戦略を支え、徹底した実行能力を実現するためには、グローバルな標準化と集約・統合、グローバルな可視化、そしてグローバルなガバナンスの確立が課題となる。

HPの持つ経験を生かしてグローバル経営を支援する

 当社では、コンパックとの合併以来、グローバルな標準化と集約・統合、グローバルな可視化、そしてグローバルなガバナンスの確立のために、様々な施策に取り組み、効果を上げてきた。ビジネスプロセスの標準化と統合化・集約化として、まず、170カ国の業務をアセスメントした。その結果、人事業務の95%、経理業務の80%が標準化できることが分かり、マレーシアやインドの業務センターにこれらの業務を集約した。ソフトウエアの開発はインド、中国をはじめとするいくつかの拠点に集約。コールセンターも世界で4拠点に統合した。

 また、IT投資の削減のために、約7000あったアプリケーションを約1500に削減し、世界で300カ所のデータセンターを6カ所に統合した。これらの水平統合によって、IT投資を売り上げの4%から2%に削減し、その分、新規事業の投資に回せるようになった。日本のユーザーも、データセンターの統合や最適化に対する関心は高く、当社のノウハウを提供していきたいと考えている。

 グローバルな可視化という面では、ネットワークやPCの台数、プリントのコストなどを数字で把握している。こうしたITコストは可視化しやすい部分だが、実は氷山の一角に過ぎない。運用管理コストやコミュニケーションコスト、ITガバナンスコストなど、ITと人の接点という、可視化できない隠れたコストがある。当社では、22万台のPCをデータセンターから集中管理することで、現場のコスト管理やPCのライフサイクル管理を実現している。

 同様にガバナンスという面で、プリンティング環境も集中管理している。プリンティングは、売り上げの6.1%を占めるTCO削減の最重要項目であり、情報漏洩の原因にもなる。当社では、プリンティングプロセスをデータセンターで管理することで、ガバナンスを確立し、コストを30%削減した。

 時代の要請は、変化に対応するITからビジネスそのものに貢献するITへと変化している。ITコストの削減による新規ビジネスの投資の拡大も経営への貢献の1つである。当社は、自社の経験を生かしたノウハウとソリューションを提供し、お客様のグローバル経営のお役に立ちたいと考えている。