相互接続の開始で新たな展開を迎えたMVNOだが,今後参入が予想されるのは主に法人向けやMtoMなどで付加価値を付けられるデータ通信分野である。音声中心のMVNOは,(1)端末調達と(2)販売チャネル/保守/サポートの両面で大きな壁があり,参入が厳しい状況だ(図1)。

図1●音声中心のMVNOは厳しい<br>端末の独自開発はコストがかかり,携帯電話事業者の既存サービスに比べると,販売チャネル/保守/サポートの面で見劣りする。
図1●音声中心のMVNOは厳しい
端末の独自開発はコストがかかり,携帯電話事業者の既存サービスに比べると,販売チャネル/保守/サポートの面で見劣りする。
[画像のクリックで拡大表示]

 (1)の端末は独自に開発するとなると,端末メーカーに対して最低でも数万~十数万台は発注する必要がある。仮に1台1万円で調達できたとしても,数万台の端末を購入すれば数億円かかる計算だ。「試しに参入してみようというレベルではない」(参入を検討しているMVNO)。

 これはデータ通信分野にも共通する課題だが,データ通信の場合には端末自体はMVNEが一括調達し,その上で動かすアプリケーションやサービスで特徴を出しやすい。音声端末の場合は,ユーザーが購入時に重視するのは端末自体の見た目や機能となるため,MVNEが一括購入するという形は採りにくい。

 (2)の販売チャネル/保守/サポートは,既存の携帯電話事業者に比べて見劣りする。既存事業者は全国に専用の販売店網を整備しており,端末の故障時はすぐに代替機を受け取れるようになっている。MVNOが同じ体制を構築するのは不可能に近い。携帯電話はいまやライフラインになっており,交換に数日かかるようではユーザーにはとても受け入れられない。こうした販売/保守網を用意できなければ2台目用途を狙うしかなくなる。

 さらに事業者自身がニッチ市場を積極的に狙い始めていることも,独自の端末を開発・提供したいMVNOの参入余地を狭めている。KDDIの「フルチェン」と「ナカチェン」がその好例で,フルチェンの狙いは端末の少量多品種化を実現してニッチ市場を開拓することにある(別掲記事を参照)。端末の見た目やコンテンツで付加価値を提供するMVNOであれば,むしろこのような仕組みを活用した方が初期投資やリスクを低減できる。

事業者もニッチ市場を狙い始めた

 KDDIは,携帯電話の外装やメニューを変更できる「フルチェン」と「ナカチェン」を2008年6月から提供している。フルチェンは2008年夏モデルから投入した端末「フルチェンケータイ re」(ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製)向けのサービスで,端末の外装部分を構成する「メイン」「キー」「カメラ周辺部」「電池フタ」の各パーツをすべて交換できる(写真A)。

写真A●端末の少量多品種化を実現するKDDIの「フルチェン」
写真A●端末の少量多品種化を実現するKDDIの「フルチェン」
[画像のクリックで拡大表示]

 一方,ナカチェンはメニューのデザインやボタン操作,コンテンツなどを変更できるサービス。KDDIだけでなく,コンテンツ・プロバイダがお勧めサイトやゲーム・アプリケーションなどをセットにしたパックを提供する。「Disney Change」や「サンリオ」などのパックがある。

 NTTドコモやソフトバンクモバイルもメニューや外装の一部を変更できる端末やサービスを提供しているが,カスタマイズ性の高さは「フルチェン」と「ナカチェン」が一歩先を進む。「カメラ周辺部とキーまで変更できるのは当社が初めてになる。パーツの変更には専用工具を利用するのでau販売店で実施する必要があるが,外装を本格的に変更できる仕組みを提供したかった」(コンシューマ商品企画本部プロダクト企画部商品戦略グループリーダーの中馬和彦課長)という。

パーツは3000個から生産できる

 こうした動きは事業者自身がニッチ市場を本格的に狙い始めたことを意味する。日本の携帯電話は市場の飽和を迎え,今後はマーケットの細分化が進んでいく。事業者はユーザーのニーズに合わせて端末のラインアップを拡充していくことが重要になる。KDDIのフルチェンもまさに端末の少量多品種化を実現するプラットフォームとして投入した。「一般に端末の最低ロットは10万~30万台といった単位になる。ニッチな要求に対応しようにも,これだけの端末を製造しなければならない。しかし,フルチェンであればパーツを3000個から生産できる」(中馬課長)。端末のデザインやコンテンツで付加価値を提供するMVNOにとっては魅力的な仕組みである。