MVNOは,既存事業者との「相互接続」の解禁で新たな展開を迎える。これまでのMVNOと事業者との契約は「卸」が中心で,MVNOが提供するサービスの自由度が低かった。卸料金や端末調達などは事業者の条件に従わざるを得ず,ユーザーに提示するサービス内容は,仕入先の事業者に似たものになってしまう。

 これに対して相互接続は,ユーザー料金の設定や端末の調達,コンテンツの提供方法などをMVNOが自由に決められる。相互接続用装置の開発や端末の調達でMVNOの負担は増えるものの,付加価値をつけやすい。

 7月に始まった相互接続のポイントは,「接続料」と「端末調達」の2点である。以下ではNTTドコモと日本通信の接続条件を見ていくが,両社の相互接続は決して特殊な例ではない。他のMVNOも日本通信と同じ条件で設備を借りられる。今後,この前例に追随するサービスが増えていくとみられる。

帯域幅課金で柔軟な料金設定が可能に

 NTTドコモと日本通信の相互接続では,日本通信がユーザー料金の設定権を持ち,帯域幅に応じた接続料をNTTドコモに払うことになった。この帯域幅課金は過去にあまりなかった契約であり,MVNOがユーザー向けの料金プランを柔軟に設定できるメリットがある。

 MVNOに対する課金方法は現状,回線数に応じた課金が一般的となっている。ユーザー向けの料金プランに対しても,1回線当たり月額XXXX円という料金体系を示さざるを得ない。料金体系でMVNOの独自性を出すのは難しい。

 一方,帯域幅課金は複数ユーザーのトラフィックを集約する分,ユーザー向け料金プランの自由度が高くなる。例えば,自動販売機の監視やガス検針のようにデータ通信量があらかじめ少ないことが分かっている場合は割安な定額料金を設定したり,故障時の緊急連絡用途であれば初回起動時だけ課金したりすることが可能だ。回線数に応じた課金では,こうしたユーザー向け料金プランは打ち出せない。

競合事業者も音を上げる接続料の安さ

 しかもNTTドコモの帯域幅課金の接続料は10Mビット/秒当たり月額約1500万円と,「かなり安い水準」(業界関係者)となった(図1)。例えばウィルコムがMVNO向けに提供する「無線IP接続サービス」は9Mビット/秒で月額2900万円から。通信方式や基地局数などが根本的に異なるので単純には比較できないが,NTTドコモの接続料が半額に近いのは驚きに値する。競合事業者からは「同じ水準ではとても提供できない」といった声まで上がっている。

図1●NTTドコモのレイヤー3の接続料は10Mビット/秒当たり月額約1500万円<br>通信設備の総コストを,全体のキャパシティに占める利用分の割合で案分することで算出した。NTTドコモは第二種指定電気通信設備の規制対象となっているため,接続料は原価提供に近い。
図1●NTTドコモのレイヤー3の接続料は10Mビット/秒当たり月額約1500万円
通信設備の総コストを,全体のキャパシティに占める利用分の割合で案分することで算出した。NTTドコモは第二種指定電気通信設備の規制対象となっているため,接続料は原価提供に近い。
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 ウィルコムに比べてNTTドコモの接続料が安い理由の一つに,契約形態の違いがある。ウィルコムの無線IP接続サービスは事業者が一定の利益を上乗せできる卸契約だが,相互接続の場合は利益を上乗せできないからだ。

 さらに接続料の算出方法は両社協議のうえ,水準が安くなる方法を採用した。接続料は通常,通信設備の総コストを,総トラフィックに占める利用分の割合で案分することにより算出している。これは「通信設備を流れるトラフィックのうちA%のトラフィックを利用したので,通信設備にかかるコストを同じA%分だけ接続料として負担してもらう」というものだ。

 だが,今回は通信設備の総コストを,全体のキャパシティに占める利用分の割合で案分したようだ(図1中の計算式)。キャパシティに占める利用分とは「通信設備で処理できる最大トラフィックに占める利用分」のこと。事業者は実際に流れるトラフィックよりも余裕を持たせて設備を構築している。キャパシティに占める利用分の割合で案分した方が接続料は安くなる。

SIMフリーの端末が続々と登場

 もう一つのポイントである端末については,MVNOが独自に調達できるようになった。日本通信の「b-mobile3G hours150」では中国ZTE製の端末を採用した。スマートフォンや電子書籍などの投入も検討しており,10社以上の海外メーカーと交渉中である。

 さらに日本通信は,端末の販売代理店と協力して海外の端末メーカーの積極的な参入を促す考えである。具体的には,販売代理店が日本通信の回線と海外メーカーの端末をSIMロックをかけずに販売する(図2)。端末にSIMロックがかかっていないので,販売代理店はNTTドコモなどのSIMカードと組み合わせて販売することが可能になり,海外メーカーが日本市場に製品を投入しやすくなる。日本通信にとっては自社の回線が利用されなくなる可能性もあるが,海外メーカーの参入を促進して市場全体を広げることを重視している。

図2●日本通信は海外の端末メーカーや販売代理店と協力して多種多様な端末を投入
図2●日本通信は海外の端末メーカーや販売代理店と協力して多種多様な端末を投入
携帯電話やスマートフォン,HSDPAの通信機能を内蔵したノートPC,電子書籍などを,SIMロックをかけずに提供する。これにより,海外の端末メーカーが参入しやすくなる。

 このような手法は目新しいものではなく,以前からあった。実際,フィンランドのノキアがSIMロックをかけていない端末をすでに国内で販売している。ただ,これまでは販売奨励金モデルで携帯電話事業者がSIMロックをかけた端末を安価に販売していたため,これらに並べて販売奨励金のない定価の端末を販売しても価格面で見劣りするだけだった。

 しかし,総務省が分離プランの導入を各事業者に要請したことで状況は変わった。分離プランで端末価格と通信料金の内訳が明確になり,ユーザーは端末本来の価格を認識して定価で購入するようになった。分離プランが定着した今だからこそ導入できる手法と言える。