今回は,図解というよりも「文章」についてのお話しです。

 もっとも,実は私が扱っている「図解術」は「言葉の使い方」をこれでもかというぐらい重視しているものなので,「図解術」と言いつつ「文章術」的な面がもともと強いのです。実際,ここまでの連載の中でも,「言葉の使い方」について少なからず触れていました。(下記にその例を挙げます)

第4回 [図解術]違うものは,違うとわかるように表現しようの中の『同じ言葉を違う意味に使っていませんか?』の項
第6回 [図解術]対称的な関係をしつこいぐらいに探してみようの中の『「対称性」は情報を構造化するための重要な視点』の項

 今回のテーマは「似通った名前には要注意」です。いったいどんな話でしょうか。まずは下記文面を見てください。

<例文1>
被監査部門による内部監査の実施を受けて,監査チームが監査報告書を作成します。その報告書は監査事務局長と監査管理責任者により承認されなければなりません。

 この文面は,ある会社が自社業務について内部監査を行うにあたり,監査の進め方について書いた資料の一部でした。

 「監査」というのは,仕事が適正に行われているかどうかの証拠を集め,評価を行う活動のことで,会計監査,情報セキュリティ監査,環境監査などが有名です。非常に大まかな説明ですが,この連載は「監査」という概念そのものの解説は意図していないので,この程度わかっていれば十分です。

 さて,例文1を改めて読んでみると,やたらと「監査」だらけなのに気がつきますね。「監査」がついている単語を列挙してみましょう。

    a) 被監査部門
    b) 監査チーム
    c) 監査事務局長
    d) 監査管理責任者
    e) 内部監査
    f) 監査報告書

 以上,たった2行,75文字の中に「監査」を含む言葉が6種類ありました。かなり紛らわしそうです。まあ,紛らわしいと言っても一応それぞれ区別はされてますし,

    「え? この程度の『似た名前』なんて,よくあることじゃないの?」

 と,もしかしたらそう思われるかもしれません。

 実際,よくある話です。このレベルで混乱していたら,ちょっと複雑なシステムの仕様書は読めなくなってしまいます。

 でも,「よくある話だからこれでいい」とは考えないようにしましょう。「赤信号,みんなで渡れば怖くない」ではいけません。紛らわしい名前である,という事実ははっきり認識しておかないと,必要な時に適切な対応が取れません。