ITpro WatcherのIT法務ライブラリでは,ここしばらく「システム開発をめぐる法律問題」をシリーズで連載している。すでに第6回まで公開しているが,システム開発をめぐって発生する紛争を4つの問題に集約した上で,実際の判例を引用しながらベンダー,ユーザーが留意すべき点を解説している。4つの問題とは,「契約の締結」「システムの完成と瑕疵(かし)担保責任をめぐるベンダーの責任」「ユーザーがベンダーに支払う代金額」「開発したプログラムの知的財産権」である。

 著者の松島淳也さんは,理系の大学院を卒業して大手コンピュータ・メーカーでシステム開発を経験した後,弁護士に転身したという経歴の持ち主である。連載では開発現場の問題意識を踏まえた上で,そこで発生する法的なトラブルとそれを回避するための具体的な対策を紹介している。

 原稿の掲載前には,法律の専門用語や独特の言い回しを,なるべく平易で読みやすいものに修正する。ただ,修正する記者は法律の専門家ではないので,修正によって正確さを損なう可能性がある。そのため,掲載前には著者である松島さんに査読済み原稿のチェックを受けて,再修正を施してから掲載する。

 たとえば,「仕事が完成したと言えるかどうかで法的な処理は異なる」という記述があったとする。「表現は短いほうがよい」と考えている記者は,深く考えずに「言える」を削除して,「仕事が完成したかどうかで法的な処理は異なる」としてしまう。だが,「仕事が完成したかどうか」の答えは紛争の当事者ごとに異なる,主観的なものである。裁判における「法的な処理が異なる」ためには,客観的な事実認定にもとづいて「言えるかどうか」が重要になってくる。したがって,「言える」を省略することは間違いとなる。

 法律の専門用語であれば,こちらもそれなりに配慮するが,「言える」のような日常使う言葉だと,つい無造作に削除してしまう。掲載前に専門家である松島さんのチェックを受けるからいいようなものの,いろいろと反省させられることが多い。さらに,いくら正確な表現を心がけても,その意図が読者に伝わらなければ意味がない。ITpro読者のほとんどは法律の専門家ではないのだから,やはり正確さを損なわない範囲で分かりやすい表現を心がける必要もある。

 そういうわけで,筆者の松島さんにご相談しながら,「分かりやすさ」と「正確さ」を両立できるように日々努力しているところである。連載では,システム開発の現場で参考になる話をいろいろと取り上げている。ITプロフェッショナルの皆さんも,“法律”というだけでとっつきにくいと毛嫌いせずに,ぜひ一度目を通していただきたい。