セブンアンドワイのCIOである鈴木康弘・代表取締役社長
セブンアンドワイのCIOである鈴木康弘・代表取締役社長

 セブン&アイ・ホールディングスグループで、書籍やDVDのネット通販事業を展開するセブンアンドワイ(東京・千代田区)。同社のCIO(最高情報責任者)は、鈴木康弘代表取締役社長が兼任している。鈴木社長はセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文代表取締役会長を父に持つ。

 鈴木社長のIT(情報技術)に対する基本姿勢は「人間と同じように接し、特別視しない」というもの。実際に「親しみを込めて『システム君』と呼んでいる」(鈴木社長)ほどだ。部下たちにも「システム君は24時間365日、文句を言わず働いてくれるありがたい存在だぞ」と説いて回っている。

 システムを特別視しないスタンスは、IT部門の人事にも表れる。例えば岡村克久情報システム部長には、顧客対応部門や経理部門の経験を積ませてきた。IT部門がほかの部門と変わらないことや、「現場の業務内容を理解していないと、良いシステムは作れない」という考えを示した人事だ。

 同じ考えから、新しいシステムの企画を検討する際には、メンバーに必ず商品のマーチャンダイザーなどを加え、IT部門との混成チームを編成する。「マーチャンダイザーなどの現場担当者はシステムの使い勝手の悪さを肌で感じており、よりよいアイデアを出せる」(鈴木社長)。

 一連のITに対するスタンスは、鈴木社長がセブンアンドワイを設立する以前の経歴が少なからず影響しているという。同氏は高校時代にアルビン・トフラーの『第三の波』(中央公論新社)を読んで感銘を受け、大学でコンピューターを専攻。卒業後、富士通でシステム・エンジニア(SE)となった。主に流通業界向けのシステム開発に勤しんだ。システムのプロだったため、システムをIT部門に丸投げするような姿勢とは無縁なわけだ。

 その後、富士通時代の末期にシンガポールに駐在してインド人たちとシステム開発を担当した。一時帰国した際に、知人の誘いを受けてソフトバンクの孫正義社長と面会。歴史好きの二人は会話が弾み、「握手されたと思ったら、なぜか転職することになっていた」と鈴木社長は笑いながら振り返る。

 ソフトバンクでは、一転して営業職に就いた。前任者からの引き継ぎはわずか3日で、50社を担当した。「顧客企業と現場で接していくことで、優れた最新技術を売り込んだからと言って、顧客は採用するものではないことを理解できた」(鈴木社長)。IT部門の人事やシステム企画のチーム編成に当たり、利用部門の視点を必ず加えるのはこのためだ。

 顧客視点を忘れないために、鈴木社長自身が書籍やDVDなどを購入する際は自社のウェブサイトを利用しているという。使い勝手が悪いところがあれば、時間を問わずIT部門に厳しく注文を付ける。「最大のクレーマーとなっている」と自認するほどだ。現場部門を含む全員でITにかかわろうという姿勢を、自ら率先している。

Profile of CIO

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・昔と比較すると、ハードウエア価格は劇的に下がり、国際的にも競争力があると思います。一方でソフトウエア開発は以前よりもコストがかかりやすく、改善の余地が大きい。

 例えばセブン-イレブン・ジャパン(東京都千代田区)は、プライベート・ブランド商品の「7プレミアム」をメーカー各社と一体となって開発することで、セブン-イレブンとメーカーのそれぞれが販促費を投入する無駄を省き、コストを下げています。このような仕組みをソフト開発に応用できないでしょうか。実態を見ると、顧客企業の我々とソフト開発のベンダーとの間には垣根があって、無駄を生んでいると感じます。

◆最近読んだお勧めの本
・『容疑者Xの献身』(東野圭吾著、文藝春秋)
・『悩む力』(姜尚中著、集英社)
・『20世紀少年』(浦沢直樹著、小学館)
・このほか、佐伯泰英氏の時代小説もおすすめ

◆ストレス解消法
・歌を歌うこと。ラップ・ミュージックから韓流ドラマの主題歌まで、レパートリーは幅広い。部下を伴ってトーハンにカラオケ採点ゲーム団体戦を申し込み、快勝しました。

・四半期に1回のペースで開催している社員との懇親会。最近の会では屋形船を借りて楽しみました。