今回は,「用語ひとつで信頼度が変わる!」と題して,社内外の業務で生じるコミュニケーション・トラブルを解決する方法について解説する。

 早速,前回のケーススタディの続きから始めよう。

 情報システム室主任の山田さとしがリーダーを務める,あけぼの産業の次期基幹システム再構築プロジェクト。メンバー同士の顔合わせのための「キックオフ・ミーティング」も無事終了し,いよいよプロジェクトが始まった。最初にプロジェクト・メンバーが取りかかったのは,自部門が利用している既存の基幹システムの課題抽出である。

 ある日の朝。生産管理部門内にある会議室では,生産管理部門の鈴木主任が,支援を依頼したシステム会社のコンサルタントと,現行の生産管理システムの課題について話し合っていた。このシステム会社は,既存の基幹システムの構築・運用・保守を担当している。

鈴木:「海外取引の契約についての問題なんですが,現在のシステムを構築した10年前は,グローバルで業務を行っていませんでした。約1年前に,取り急ぎ海外取引の契約の入力ができるようにしましたが,契約業務以外の業務のマスターデータと連携していません。次期基幹システムの再構築では,10年先まで使えるシステムを作ることをトップマネジメントから要求されているので,この部分も踏まえてしっかり改善したいと考えています」

 コンサルタントは,テーブルの上のノートパソコンで現行システムの画面を見ながら,海外取引の契約について理解しようとしていたが,理解はなかなか進まなかった。

コンサルタント:「海外取引の契約の定義について教えていただいてもいいですか?」

鈴木:「製品を海外から輸出入するときは,取引の契約をFOB(Free On Board)とCIF(Cost,Insurance and Freight)に区分して考えています。FOBの場合は,画面のこの部分に入力して,CIFの場合は・・・」

 鈴木は,コンサルタントがFOBとCIFという用語の意味を理解しているかどうか確認しないまま,説明を続けた。

 業界知識が乏しく,プロジェクト経験も浅い新任だったこともあり,コンサルタントはFOBとCIFの意味が分からず,上手くコミュニケーションを取ることができなかった。話が進むにつれて段々と内容が分かってくるだろうと楽観視していたが,いっこうにその気配を感じることができないでいた・・・。

 その日の午後。今度は情報システム室の会議室で,山田と鈴木主任が,生産管理システムの課題について話し合っていた。

鈴木:「最終検査の合否判定結果は,記録用紙に記入した後で保管しているため,現在は,即座にその状況を分析して対処することができません。生産管理システムにデータを入力できるようにして,品質状況がリアルタイムで解析・把握できる仕組みにしたいと考えています」

山田:「確かに最終検査の結果データを使って品質状況をリアルタイムで解析・把握できる仕組みはありませんが,システムに入力できる状態にはなっていますし,データも入力されていると思いますが」

鈴木:「いいえ,そんなことはありません。現行システムでは結果のデータを入力することすらできないんです」

 2人とも,「最終検査」の結果データの取り扱い方法について話し合っていたが,どうも話がかみ合わないように感じ始めていた。

山田:「もしかして鈴木さんは,製品の製造工程の最終段階で形状や寸法,外観を検査することを『最終検査』と言っているのではないですか?」

鈴木:「もちろん,そうですよ」

山田:「それで分かりました。私は,倉庫から顧客へ製品を出荷する直前に品目や数量,納品場所を検査することを『最終検査』と言っていたんです」

鈴木:「そうだったのか。その検査のことは,通常は『出荷検査』と言っているので・・・。ずいぶん時間を無駄にしましたね」