情報システム部門の使命は,事業を円滑に展開できる情報システムを安定的に提供することにある。そうした情報システム部門の管理者を,単純に「コンピュ-タ技術に詳しい人間」といった基準で選ぶような人事を繰り返していると,継続性の面で支障が出かねない。今回は,管理者の好みで方針がコロコロ変わる事態に,部下が反旗を翻した例を紹介する。経営者は,情報システム部門の管理者選びにもっと真剣になるべきである。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 電子部品の製造販売を営むC社で,新年度の事業と予算の検討が始まったときのことである。12月の全社経営会議でT社長は,次のようなメッセージを幹部社員に伝えた。

 「わが社の売上高は3年前から,年率10%前後で伸びている。社員一人ひとりの努力のたまものである。しかし営業利益は1~2%ほどしか伸びていない。営業担当者の販売予測がいい加減で,甘いと言わざるを得ない。確かに受注登録は多い。しかし取り消しの数は驚くほどだ。不良在庫が山を築き,営業利益を圧迫している。営業部門はもちろんのこと物流担当や管理部門すべてが,コストに対する認識を改めなければ成長は望めない。正確な販売予測と適正な在庫管理を実現するために,業務処理手順やルールの見直しと標準化を進めてもらいたい」。

 社長の熱弁は続いた。「4年後に株式を公開したいと考えている。そのためには,月次決算の迅速化と企業活動の透明性を高めなければならない。従来からの仕事のやり方や価値観にとらわれず,21世紀の当社ビジネスのあるべき姿を思い描いて,事業改革に取り組みたい」と幹部社員に語りかけた。

会社の成長に追いつけないシステム部

 C社は主要都市5カ所に営業所をもつ創業35年の中堅企業。現在のT社長は約15年前に会社を引き継いだ2代目社長だ。T社長は,大手電気メーカーの下請け企業として長く続けてきたビジネスからの転進を図った。自主独立を掲げて,新分野の技術開発に乗り出したのだ。

 成果は5~6年前から表れてきた。開発したメモリーや液晶関連の部品が注目を集め,生産が受注に追いつかないほどの忙しさとなった。また企業の情報化や携帯電話の普及が追い風となって,急激に成長した。しかし企業の急成長に組織の整備や人材育成が追いつかず,全社レベルでの事業立案や業務管理に支障を来していた。

 そのようなC社で情報システム部は,15名ほどの陣容でシステムの維持・管理を中心に業務をこなしてきた。しかし企業の急成長に追随できず,システムの変更や新規システムの開発を外部ソフト開発会社に委託して,何とかしのいでいた。それでも常に多くの案件を積み残している状況だった。

 情報システム部を切り盛りしているのはN部長だった。N部長は,C社と長い付き合いのあるソフト開発会社J社の紹介で,2年ほど前に中途採用で入社した。N部長はソフト開発会社の出身で,技術にはうるさいが,人間を相手にするのが苦手というタイプだった。

 ちなみにC社の情報システム部長は,どういうわけか短い期間でよく変わった。N部長が,ここ5年ほどで3人目の情報システム部長である。