ハードウエアやソフトウエア・パッケージの新製品が次々に発表される。「新技術の採用・高性能で低価格の実現」といった魅力的な言葉で顧客の購入意欲をかき立てる。新しい情報技術や製品の出現によって情報システムの仕事に従事する者が取り組むべき領域はますます広がり,難しさを増した。多くの企業で,今日もさまざまな製品の導入が決断されている。情報システム部門の責任者が選択を誤れば,企業を破滅に追いやると言っても過言ではない。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 建築設備機器大手販売のS社は,取引先からの在庫問い合わせや受注処理に多くの労力を割いてきた。そのほとんどは電話やFAXによる連絡である。業界内の慣行もあって,問い合わせや受注依頼にコード名が使われることはほとんどない。普通は,商品名や略称を使っている。そのために,ミスが頻繁に発生し,後始末に多くの労力を費やしている。特にベテランの受注担当者が少なくなった昨今は,取引先からの苦情も無視できないほどになってきた。

 一方,納期に対する取引先の要求は厳しくなるばかりだ。ゼネコンや建築会社が機器や部品を注文するサイクルもどんどん小刻みになってきている。1件当たりの注文は少額になった。このため受注担当者が処理しなければならない伝票の枚数が増えている。

 取引先からは,発注処理や在庫回答のスピードアップを求める声が日増しに強まっている。現場から報告を受けたS社の経営幹部も改革の必要性を痛感し始めた。そこでS社では,長年の懸案だった販売管理システムの再構築に踏み切ることになった。

やりがいのある仕事に若手が張り切る

 常務会での承認を得ると,業務推進部と営業管理部,それに情報システム部を中心とするプロジェクト・チームが発足した。

 S社の在庫管理業務は,これまでもコンピュータ化されており,営業担当者はパソコンから在庫照会や納期の確認を行ってきた。しかし,この方法では,取引先からの問い合わせや発注連絡を,S社の社員がすべて処理しなければならず,業務量の急増に追いつかなくなりつつあった。

 プロジェクト・チームでは,今までの発想を逆転して,在庫照会や発注処理をすべて取引先に任せてはどうかということになった。いろいろ検討してみると,在庫情報や必要な製品および部品の情報を取引先にオープンにして,取引先から自由にアクセスできる仕組みを用意すれば実現できそうだった。プロジェクト・チームで検討を進めると,インターネットを活用した電子商取引の構築が最適という結論になった。

 S社の情報システム部は約60名からなる。関連会社の情報システム化も面倒をみているが,プログラム開発や運用は外注要員を頼りにしている。ここ数年は,情報システム部の要員が削減されたこともあって,新規開発の案件に十分に対応できていない。新入社員が1人も配属されない年もしばしばで,人材も硬直化しつつあった。

 新販売管理システムの構築では,新しいソフトウエア・ツールの導入が必要になる。しかしS社の情報システム部ではとてもそれをやり遂げるだけの力がない。そこで外部の情報サービス会社の力を借りることになった。そのための計画作りを情報システム部の中堅・若手社員に任せたところ,だれもが張り切って取り組んだ。久しぶりに最新の情報技術に触れられたことが刺激になったようだ。