基幹系のシステム構築では,システム開発を委託する外部の協力企業の選定は極めて重要だ。そのように重要なパートナを選定するのに,営業取引や資本関係の要素を最優先にすると失敗の元になる。情報システム部門以外の人たちの多くは,どこを選んでも大差ないと考えている。このため構築予算が大きくなればなるほど,営業部門や購買部門からの干渉も増えてくる。期待通りのスキルやサービスの提供が受けられなければ,早い段階で事態収拾に動くべきだ。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 D社情報システム部のY部長は,経営会議でシステム化の現状について次のような説明をした。混乱を極めている事態の収拾に向けて,対応策の了承を早急に得なければならなかったのだ。

 「弊社新販売管理システムの構築を,情報システムのトータル・サービス会社であるT社に依頼してから6カ月が過ぎました。当初の計画では3カ月間でシステム化の基本的な計画を取りまとめる予定でした。しかし半年が経過した現在も,まだ計画は煮詰まりそうにありません。T社への発注は,弊社の営業取引面で大きな実績のある同社自身からの申し出と,当社営業本部からの後押しもあって決定した経緯があります。ところがT社側の対応は我々が期待したものとはかけ離れていました。このままでは新販売管理システムに関する基本計画の策定ができず,要件定義やシステム設計工程へ進めません。取引上,重要なT社ではありますが,弊社にとって極めて重要なシステム構築でもあり,計画の遅れは看過できません。この際,T社への発注を白紙に戻したいと考えます。是非,経営会議のご承認をいただきたいと存じます」と,Y部長は苦しい状況を訴えた。

基本計画の策定まで外部に頼る

 オフィス機器の製造・販売を行うD社は,関東・関西地区を中心にビジネスを展開し順調に発展をしてきた。しかし近年は企業の需要も頭打ち状態が続いている中で,アジア系メーカーの台頭や異業種からの参入も多く,市場競争はますます激しさを増している。このままではジリ貧状態から抜け出せないという危機感が強くあった。

 現状の打開策として,D社の幹部は,新製品の紹介や増設需要の掘り起こしを戦略的に実行して顧客満足度を向上させることを決めた。これによって,このところの営業利益の減少に歯止めをかけ,増勢に転じさせようという期待があった。D社経営会議のメンバーは「新販売管理システム」の構築が,D社にとって極めて重要な意味をもつだろうという思いから多額の情報化投資を決断した。

 早速,D社では今回の新販売管理システムの基本計画作りから実際の構築作業に至る一連の工程を推進するための体制作りに入った。しかし残念なことにD社の情報システム部には,大きなシステム構築プロジェクトを引っ張れるだけの人材がいなかった。日ごろ,各業務部門から要請されるシステムの変更対応に追われるばかりで,新しい技術の導入や習得の余裕はほとんどないのが実情だった。システム部のY部長は中堅技術者の中途採用を決めて内部要員の増強をはかると同時に,情報サービス会社のT社が持つノウハウと強力な指導力に期待せざるを得なかった。

 T社との契約は,計画作成,要件定義,設計業務,構築,テストといった作業フェーズごとに締結することになった。契約の締結後,直ちに第1ステップの計画の作成がスタートした。Y部長は,基本計画の検討をD社側で行うつもりでいたが,要員問題や期間の制約からT社の提案を受け入れざるを得なかった。

 直ちにT社のコンサルタント部から40歳ぐらいのS氏がリーダーとして,3名の技術者を引き連れて派遣されてきた。D社側からも関連部署の代表者が加わって,「新販売管理システム計画検討プロジェクト=略称Pプロ」が始動した。プロジェクト・チームは,1週間に2,3回の会議や調査活動を行いながら精力的に活動した。

 最初の2週間は,T社から提案された作業項目の確認や両社間での役割分担を決めるなど,S氏の主導の下で順調に滑りだした。D社側の各部代表者のモラルも異常とも言えるほど高かった。現場のだれもが,このプロジェクトが自社の新しい事業を形成する重要なモデルになるという認識と,多くの社員からの期待を痛感していた。