最近は,海外製のパッケージを導入する企業が増えている。ところが外国企業を巡っては,買収・売却,統合,不採算部門の売却や切り捨てが日常茶飯事だ。こうしたことがきっかけで,販売やサービス形態が変わることも珍しくない。ひどい時には,製品の販売やサービスが終了してしまうケースさえある。そのようなことになれば,ユーザー企業はたまったものではない。情報システムを導入する企業は,かなりのリスクを覚悟しなければならない。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 電子部品の素材メーカーであるJ社は,3カ年の中期経営計画を昨年6月に決定した。エレクトロニクス産業を取り巻く厳しい市場環境を考慮した上で,経営面からの要請も十分に加味した内容になっている。

 J社の経営陣は,中期経営計画の策定にあたって二つの大きな柱を決めた。まず,「国際的に認知される企業ブランドの確立」である。その実現には,優れた新商品の開発や新たな市場への進出は当然として,企業経営におけるコンプライアンス(倫理法令順守)や環境問題への取り組みも重視することになった。

 二番目は,「企業活動の透明性を高めること」である。そのためにはIR活動(投資家への情報開示)と会計制度の整備が必要だということになった。会計制度の整備は,国際会計基準に即した業務システムの確立,連結決算のシステム化,海外2工場における原価管理システムの整備などが当面の目標になった。

パッケージの導入を全員一致で決定

 J社では5年ほど前から旺盛なマーケットの需要に対応して,国内の工場はフル稼働を続けてきた。今となっては信じられないが,一時はこれ以上の生産拡大は無理というほどになった。ところが3,4年前から急速に,海外メーカーとの競合が顕著になり始めた。とりわけ価格面でのし烈な競争が激しくなる一方だった。

 このような状況では,国内の生産拠点をこれ以上増強するのはコスト的に引き合わない。そこで2年ほど前に東南アジア2カ国に進出することを決め,現地に生産拠点を設けた。最近では,国内工場との生産分担もスムーズにできるようになり,現地工場での人材育成も軌道に乗り始めた。生産性もある程度の水準を確保できるところまでようやく到達した。

 J社における情報システム部は,いくぶん異色の存在である。経理部や総務部門からは独立している,情報システムの専任組織というのが一般的だが,J社では生産本部に所属している。その理由は,原価計算や生産管理のシステム化が,経理業務や人事・給与業務よりも先行して実施されてきたことにある。情報システム部が生産本部に所属しているからではないだろうが,J社では製造・物流業務関連のシステム化がこれまで数多く実施されてきた。

 今回の財務・経理システムの再構築における業務面の検討は経理本部が中心になって行い,システムのインフラやシステム開発は情報システム部が責任をもって進めることになった。システム化の要件もなんとか3カ月ほどでまとまり,ITベンダーや情報サービス会社5社に対してシステム化提案を求めた。その結果,3社から海外製パッケージを利用する案が提出された。残りの2社は,国産の業務パッケージを使う案を出してきた。

 J社の検討メンバーは各社からの提案説明を聞いて候補を2社に絞り込んだ上で,最終的な検討を進めることにした。評価採点表の準備までしてメンバー全員で投票をした結果,英国E社の日本法人が提案したパッケージを導入しようという結論になった。J社側から要望した機能や拡張面,他企業での実績,提供サービスの内容といった項目で高得点を獲得したことが決め手になった。E社のパッケージは,導入費用や毎年の保守にかかるコストは一番高かったものの,それでも余りあるだけの魅力があるという意見が多数を占めた。