中堅・中小企業が,要員と技術力の不足という逆境の中で,情報化を進めるのは容易なことではない。外部の情報サービス会社を活用するのが情報化を成功させる鍵とはわかっていても,そうした相手を探すことさえ難しい。そこで親会社や,影響力のある外部企業の力を借りようということになる。ところが,中堅・中小企業の現状をよくわきまえずにピントのはずれた支援を受けると,うまく行かないばかりか,問題を余計にこじらせてしまう。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 N社の経営会議で,財務担当のK常務から次のような発言が飛び出した。

 「我が社は,情報化投資に売上高の3 %以上を毎年つぎ込んでいる。当社の規模からすれば,1.5~2.0%ぐらいが適切ではないのか。しかも,それだけの投資をしても情報化の効果が出ているかどうかは疑わしい。現在,導入を進めているPOS(販売時点情報管理)システムも,開発の最終段階で問題が起こっていると聞く。こんなことでは,いずれ大変な事態になるのではないのか。情報システム部長の見解をぜひ聞かせてもらいたい」。

意欲的なシステムの導入を決定

 ホームセンター10店を統括するN社は厳しい企業競争が続く小売業界の中にあって,「高品質と低価格」の両方を求める顧客の志向の変化に頭を痛めていた。さまざまな議論を経て,商品の在庫を圧縮して,なおかつ販売機会のロスを減らすには,グループ全体で販売と物流を管理できるシステムの導入が急務だという結論になった。

 N社が6年程前に導入した販売管理システムは,売り上げの実績集計を主眼にしている。そのため,多角的な商品管理や販売分析に必要な情報は蓄積できない。また簡単には機能の追加もできない仕様になっている。

 そこで,仕入から販売までを統合的に管理するサプライチェーン・マネジメント・システムの導入が,経営会議で決まった。このシステムは,詳細な市場予測と商品企画,売れ筋商品の管理や在庫情報をリアルタイムに把握して販売の機会ロスを徹底的に削減することを目指すものである。

 その上で,従来のように全店舗を画一的に扱うのではなく,各店舗のその時々の状況に合わせて柔軟な販売戦略を立案することも目標にした。この目標の実現には業務センターでの一元的な処理に加えて,各店舗に設置するサーバーやPOS端末にその店固有の機能を組み込むことが必要になる。

 N社のシステム部は10名ほどの所帯で,グループ全体の情報システムの面倒をみるには力不足が否めない。日常業務をこなすのに精一杯で,システムの企画やIT関連の技術情報を収集・評価までする余裕はほとんどない。

 こうした事情があるので,N社の情報システム関連の実務は,情報サービス会社のJ社に日ごろから頼りきっている。「頼り切っている」という表現がまさにぴったりで,これまで長年にわたってJ社に言われるままにシステムの保守・運用を任せてきた。

 今回のシステムの刷新は,全社挙げての期待を担っている。総予算も3億5000万円をかける一大プロジェクトだ。システム構築規模もこれまでになく大きいことから,J社の技術者だけでは要員をとても賄いきれない。このため外注のSEも数人を動員してシステム開発は始まった。