親会社から独立した情報システム子会社が増えている。しかし経営的に成功しているケースは少ない。うまくいかない理由のほとんどは,親会社が安易な発想で,子会社に仕事を任せていることにある。情報システム子会社には,社内の業務だけに対応するのか,それとも社外のビジネスも受注して成長を狙うのか,明確な戦略が必要である。その上で子会社に移った社員のモラルを維持し向上していくことが不可欠だ。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 金融サービス業のS社は管理会計システムの再構築に着手した。この仕事の責任者になった情報システム部のB部長は,業界でも画期的なシステムにしようと計画段階からはりきっていた。ところがいざ具体的な作業が始まってみると,システム要件の検討や設計要員の手配が思うように進まずいら立ちを感じている。

企画部門だけを残して子会社に転籍

 今から3年前に,S社は情報システム部門を分社してT社を設立した。変化の速い情報技術分野で社員の専門性を継続的に高められる待遇面,勤務体制,教育・研修などに関して独自性を打ち出すことが狙いだった。本社と同じ人事制度のもとでの要員採用や人材育成は,見直しが必要な時期に来ていた。

 もう一つ別な狙いもあった。情報システムをフル活用する新たな顧客サービスへの対応である。それには情報システムの24時間稼働と,それを支える管理体制の導入が急務だった。

 背景には経営方針の変更がある。本社機能をできるだけスリム化して,情報システム要員については見直すことになった。それまではすべて自社要員でまかなっていた,コールセンターや約定関係書類の入力作業と保管業務も外部企業にアウトソーシングすることになった。

 S社の扱い商品が増えるたびに情報システム部の要員も増え,当時は既に約70名に膨れ上がっていた。数年前から情報システムの運用・保守業務はほとんどを外部企業に委託していたが,それでも要員不足は慢性的だった。

 本社機能をスリム化するという方針に沿って8人のシステム企画グループだけを残し,その他のシステム開発,保守,運用管理グループの総勢約60名がT社に転籍した。情報システム関連の企画機能だけはそのまま本社に残すことになった。社内利用部門や経営層から寄せられる情報化ニーズの検討や新技術の動向調査と評価が主たる業務である。