クラウド・サービスはITのユーザーやベンダーにとって,新たな情報システム提供や利用の選択肢である。しかし,クラウド・コンピューティングの定義は明確ではない。企業は何がクラウド的であるのか,自身の選択にどう影響するのか,そしてクラウドは役に立つモデルであるかどうかを理解する必要がある。

Gartner,Inc.
ダリル・C・プラマー マネージングVP兼ガートナー フェロー
亦賀 忠明 VP兼最上級アナリスト (Gartner Symposium/ITxpo 2008 チェア)

 サービス提供手段の流行語として、クラウドコンピューティングはいまだ完全に理解されているとは言い難い。企業やベンダーがサービス提供手段としてクラウドモデルを適用できるかどうかは、彼らがクラウドサービスをいかに容易に適用し、ユーザーが利用できるかがカギを握る。2013年までは90%のIT部門にとって、クラウドの品質やサービスレベルがサービスを利用するか決定する基準となるだろう。

 クラウドコンピューティングを利用するには、クラウドという文脈に沿って最も価値のあるサービスの種類を理解することが必要だ。以下では何がクラウドで何がそうでないかを説明する上で必要な、クラウドサービスの特徴をみていこう。

クラウドにまつわる八つの神話

 インターネット技術を利用する複数の顧客に向けて、極めて拡張性の高いIT資源をサービスとして提供するコンピューティングのスタイル―。ガートナーはクラウドコンピューティングをこう定義している。

 これはすべてのクラウドサービスに厳密に当てはまる定義とは限らない。多くの新興クラウドサービスは、限定的な拡張性しか持たないまま産声を上げる。

 IT業界にはクラウドにまつわる数え切れないほどの「神話」がある。一般に製品やサービスをクラウドに沿って整理するためのITベンダーの取り組みに関するものは、主に次の八つだ。すなわち

1. クラウドコンピューティングは新たなアーキテクチャ、あるいはネット基盤のことである
2. すべてのITベンダーが異なるクラウドを持つ
3. SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)がクラウドである
4. クラウドコンピューティングは全く新しい革新である
5. リモートコンピューティングはすべてクラウドコンピューティングである
6. インターネットとWebはクラウドである
7. すべてがいずれクラウドに移行する
8. クラウドは私的ネットワークを駆逐する

 以上の八つの神話は、クラウドに対する誤解や誇張に基づくものが少なくない。例えばクラウドはアーキテクチャでもなければ基盤でもない。単に顧客とサービス提供事業者との関係を抽象化した存在だ。

 これはクラウドコンピューティングには多くのアプローチがあることを意味する。各々のITベンダーは異なるクラウドを構築するわけではないが、一つの公的なクラウドを通じてサービスを提供する。

 SaaSとIaaS(サービスとしてのIT基盤)のベンダーはクラウド事業者になり得る。ほとんどは目新しいものではない。テクノロジの関係性や有効性、そしてテクノロジに対する思考法の変化がこれまでとの違いだ。サービスや技術をどう実装するかではなく、そのサービスや技術で何ができるのか、という変化である。

神話から現実(サービス)へ

 こうしたクラウドにまつわる神話を克服するためには、以下の三つの観点を明確にするとよいだろう。

1. クラウドは品質を保証できるサービスでなくてはならない
2. サービス事業者と消費者の間に潜在的あるいは明示的なSLA(サービスレベル・アグリーメント)が存在する
3. それ自体がクラウドサービスでなくても、要素技術はクラウドに対応している

 ITベンダーによる何らかの取り組みをクラウドサービスと呼ぶためには、その提供形態が「サービス」となっている必要がある。クラウドは一般消費者にサービスを提供するベンダーの能力の一機能である。

 すなわちWebまたはインターネットとクラウドの違いは、サービスの内容や機能よりもむしろ目的に起因する。ある組織がネット経由で一般消費者にサービスを提供する役割を負う状態、すなわち一般消費者とサービス提供者の間に何らかの契約関係が成り立つ場合、それはクラウドサービスの一部と見なすことができる()。

図●クラウドコンピューティングと非クラウドの対比<br>クラウドはインターネットやWebを利用するだけでなく、サービスや資源を提供する上で一定の責任を持つサービスを指すことが多い
図●クラウドコンピューティングと非クラウドの対比
クラウドはインターネットやWebを利用するだけでなく、サービスや資源を提供する上で一定の責任を持つサービスを指すことが多い
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